本楼に降った校長の雨【75感門 宵々山】

2021/03/11(木)21:10
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ひと雨ごとに春が来る。

2日後に感門之盟が迫った3月11日、16時すぎ。リハーサルを控え、学林局メンバーが総掛かりで式次第の最終確認にあたっていた。林頭・吉村堅樹が、登壇する師範や師範代のモノマネを披露してうれしそうにしている。本番直前にしてはめずらしく、ひと足早い春のようなうららかな空気だった。

 

しかし、雲行きは一瞬で変わる。本楼のにじりぐちに、校長松岡正剛がふいに現れたのだ。ぐるりと見渡すなり、「屏風はこの位置でいいのか」「カメラは」「司会台は」「次のコーナーは」
矢継ぎ早に繰り出される校長の問い。すべてによどみなく答える統括吉村。演出意図も工夫も十分にある。

それでも松岡はひとりごちる。
「なんか足りないんだよな」

 

 

吉村が黙った。司会にあたる律師・八田英子も立ち尽くす。局長・佐々木千佳が、本楼と学林堂の階段を大急ぎでのぼりおりする。マスクをずりおろし、無精ひげをさわるのは参丞・橋本英人だ。

 

「『Inform共読区』だろ」

 

ベースに立ち戻っては、昨年8月末に代官山で行われたオンライン講演会「千夜千冊の秘密」でのしつらえや、バラエティ番組での明石家さんまの振る舞いなどを例に挙げ、本楼に「ないもの」をサーチしてゆく。

「書はここに」「本もいるだろう」「パネルは印刷して。あとは……」

つぎつぎに増えていくツールたち。松岡はそれの使い方までは言及しない。与件だけを託すのだ。

 

 

 

さなかに松岡がふと気づいた。
「おれ、ここにいるよ」

開幕初日、冒頭での校長挨拶の演出を思いついたようだ。

 

「そこですか!」
テクニカルをまるごと引き受けるテレビマン中島麗が、思わず叫ぶ。

「それは……」小森康仁がうめき声をあげる。それを見てうれしそうな衣笠純子。

 

果たして、校長からのお題をクリアできるのか。
そして、松岡はなにを企んだのか。
すべては3月13日13時に明らかになる。

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。