モノローグ、原風景から、その先の問いへ―53[守]特別講義前夜

2024/07/13(土)12:07
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 6月下旬、53[守]の各教室には、唐突に二つのお題が届いた。
一つめは「モノローグ」づくり。モノローグとは、演劇や映画の中で、登場人物が一人で語るセリフのこと。『ハムレット』の「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」という有名な一節もそうだ。「なぜ、いまこのお題?」という問いを見透かすように、お題文にはヒントが添えられた。まず語る場所や場面(「地」)を設定すること。続いて、誰にどのような視点で何を語らせるかを考えること、と。二つめは「原風景」綴り。「忘れ物を取り戻すように、アタマの奥へと探しにいってみよう」とのことだ。いずれも、53[守]の特別講義に登壇するこまつ座代表、井上麻矢さんからのものだ。

 

 7月上旬の回答期限までに、それぞれに70近くもの回答が寄せられた。

 モノローグづくりは、新たな「わたし」に出会えた達成感があったようだ。

どこにも行っていないのに、たくさんの別様の「わたし」を旅したかのように、私の体験がぐんと増えたような気がします。

 

今週あった「雨」を地に設定して、雨に濡れた洗濯物に託して書いてみました。今までなかった「カンボジア人のわたし」が出てきて大満足。

 

人じゃなくて、ものが語る形にしたいと考えました。いつも目にするペットボトルを主人公にしたら、スラスラ書けました。

 

 一方の原風景は、「わたし」の来し方を探る体験になったようだ。

子供のころは自分の居場所を自分で作りあげていたように思う。小さな「わたし」はとても創造的で、学ぶべき教師なのだ。

 

あの頃たくさん触れいてた「この世界の印象」ってどうだったかな、と思い出しながら書きました。悲しみやさみしさや怒りとともに、楽しかったこともしあわせなこともたくさんあって、わたしにとってお守りのような、いとおしい記憶です。

 

断片的な記憶をつなぎ合わせました。この美しい風景に包み込まれ、解放される感覚を感じ続けたこの風景は、今でも私を励まし続けてくれています。

 

 「麻矢さんは、なぜこのお題を出したのか」、「これらのお題を通して、私たちは何を学べるのか」。

 特別講義を数日後に控えた夜、53[守]の指導陣が、さらにたくさんの問いを交わしあった。

井上ひさしの脚本こそが「」なのではないか。麻矢さんが、井上ひさしの脚本を通じてメッセージを伝えているように、私たちも守の「型」に伝えたいことを託すことができる。麻矢さんにとっての演劇と私たちにとっての稽古をつなげて捉えられるのではないか。

 

井上ひさしというモデルを継承するにあたって、麻矢さんは、何を変えて、何を変えていないのか。「継承」を麻矢さんはどのように捉えて、実践しているのか。

こまつ座には、座付きの役者がいない。外の人に開いているからこそ、同じ演目を再演し続けることで、継承と更新を同時に実現しているのではないか。

 

こまつ座の運営のために、麻矢さんは、多くの人を巻き込むために守の型を実践しているはず。それをまねびたい。

 

「なぜ守を学んでいるのか?」。学衆さんたちとこの問いに別の見方を得られる時間にしたい。

 

 守の番稽古で実感してきたように、「お題」に出会うことで、私たちの内に潜んでいる思考や言葉が動き出す。松岡校長は、「学ぶ」のキモは「問題を立てる」ことにあるという。ちょっとしたことでも、問題を立てることができれば、そこに自己組織化自己変更化のきっかけがおこる。
 53[守]特別講義「井上麻矢の編集宣言」まであと一日。たくさんの問いをもって臨む一団に何がおこるのか。

 

 文/阿曽祐子(53[守]番匠)


★特別講義の概要は以下の通り。


●イシス編集学校第53期[守]特別講義「井上麻矢の編集宣言」
●日時:2024年7月14日(日)14:00~17:00
●ご参加方法:zoom開催
●ご参加費:3,500円(税別)

  ※53[守]受講生は受講料に含まれています。
●申込先:https://shop.eel.co.jp/products/detail/717
  ※53[守]受講生は教室からお申し込みください。
●お問合せ先:es_event@eel.co.jp


どなたでも受講できます。まだ間に合います。ふるってご参加くだ
さい。


 

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。