53[守]特別講義、開催決定! 劇団こまつ座代表・井上麻矢さんが登壇

2024/05/29(水)11:53
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井上ひさしに、「ゆれる自戒」という有名な言葉がある。
 
 むずかしいことをやさしく、
 やさしいことをふかく、
 ふかいことをゆかいに、
 ゆかいなことをまじめに、


誰もがこのとおりに表現できたらなあとあこがれる編集方針だ。

井上麻矢さんの語り口は、まさにこのとおり。劇団こまつ座代表でエッセイスト、第12期[守]「胸中サンズイ教室」の卒門者であり、今年発足した「ISIS co-mission」のメンバーの麻矢さんは、[守]で学んだことが仕事に生きているという。
井上ひさしの作品を上演する劇団こまつ座を継いで15年。麻矢さんは経営の荒波を幾度もくぐり抜けてきた。
その際に役立った[守]の型の実践を具体的に明かす今回の特別講義は、複雑な現代社会を編集して生き抜きたいわたしたちには、聞き逃せない機会になるはずだ。

麻矢さんが、父・井上ひさしの最後の言葉を綴ったエッセイ『夜中の電話』に「自分という作品を作っているつもりで生きていきなさい」とある。麻矢さんを支え続けている言葉だ。

 

あふれる情報に流されていきがちな現代。
終わらない戦争や紛争に、先の見えない経済状況。
自分だけよければ、という本音が見え隠れする政治家の姿に、慣れて麻痺して無関心になっていく市民たち。

難しいこと、厄介なことを避け、うまく立ち回ってつつがなく暮らす。自分という作品は、その程度でよいのか。

父の想いを継いで困難に立ち向かう麻矢さんの生き様は、見たくないものから目を逸らし、安穏と生きようとする私をずしりとふかく刺してくる。

 

先日のこまつ座公演『夢の泪』はどうしても上演しないといけない作品だった、と麻矢さんは話す。東京裁判を題材にしたこの作品は、日本人であること、日本のこれからを考えるのに大事な芝居だからだ。どれほど困難が大きくても、大事なことは譲らない。そんな麻矢さんが語る姿はまっすぐで、痺れるほどにかっこいい。

 

冒頭の「ゆれる自戒」には、続きがある。

 

 まじめなことをだらしなく、
 だらしないことをまっすぐに、
 まっすぐなことをひかえめに、
 ひかえめなことをわくわくと、
 わくわくすることをさりげなく、
 さりげないことをはっきりと

 

ものごとには常に表と裏がある。その両方を網羅してものを見ようとする姿勢が大事で、見えていながら見えていないもの、見ようとしないと見えないものを、はっきりと見えるもの、聞こえるものにするために、やわらかさとかたさを共存させるこれらの方法が効果的なのだと思う。

 

麻矢さんの声は、春の陽ざしのようにやわらかだ。その中に、芯がある。はっきりした意思があり、まっすぐに一本筋が通っている。心地よく響く言葉の中に、明瞭で確固としたメッセージがある。メッセージの先の、めざすべきターゲットが見えているのだろう。そしてひかえめに、わくわくと、さりげなく、やさしく、ふかく、おもしろく、ゆかいに語る。

 

世の中にどう伝えるか、知識をアウトプットする方法としくみを編集学校で学んだと麻矢さんは明言する。頭で理解するだけでなく、「型」を体に通したことが、仕事をするうえでの麻矢さんの力と自信になっている。

[守]の「型」が力を発揮する場面を、この特別講義で目撃しよう。

 

文/福澤美穂子(53[守]師範)

アイキャッチデザイン:穂積晴明


特別講義の概要は以下の通り。

 

●イシス編集学校第53期[守]特別講義「井上麻矢の編集宣言」
●日時:2024年7月14日(日)14:00~17:00
●ご参加方法:zoom開催
●ご参加費:3,500円(税別)

  ※53[守]受講生は受講料に含まれています。
●申込先:https://shop.eel.co.jp/products/detail/717
  ※53[守]受講生は教室からお申し込みください。
●お問合せ先:es_event@eel.co.jp


どなたでも受講できます。ふるってご参加ください。たくさんのお申し込みをお待ちしています。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。