エディストライターの秘める想い 〜インタビュアーのかまえ〜【51破伝習座・文体編集術レクチャー】

2023/10/05(木)13:00
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51破の開講がいよいよ二週間後に迫った。「型を破って型に出る」が破の眼目。学衆にどう指南を手渡せばいいのか。最初の伝習座が豪徳寺ISIS編集学校で開催された。つどった指導陣の意気込みで、学林堂は夏真っ盛りだった。

 

破の最初の稽古は文体編集術。読み手に何を伝えたいのか、どうすれば伝わるのかを徹底的に鍛える。その中のインタビュー編集術では、学衆がインタビュアーになって相手の魅力を引き出し、その魅力を読み手に伝えるまでを稽古する。文体編集術レクチャーでは、「生きた編集術を体現するとはどういうことか」をテーマに、得原藍師範と森川絢子師範が遊刊エディストのライター上杉公志氏、福井千裕氏を招きインタビューを行った。

 

ここではかいつまんでその内容をお伝えしたい。


「ここにいたからこそ浮かび出ることを大事にする」

貪欲にISISのイベントを取材し続けている福井。記事の語り口はユーモラスで、意外な組み合わせが読者を引き込む。松岡校長が「トレーサビリティに優れる」と高く評価する注目のエディストライターだ。


「取材情報の選別はどうしているのか」の問いに、軽井沢風越学園で開催されたISISワークショップ取材の様子を語った。

 

ぶらぶらしていると、中学生の生き生きした姿に惹かれ記事のテーマは決まった。しかし「きれいごとにしたくない」という意地があったという。どう伝えるか。


「自分だけで書こうとするとすぐに行き詰まってしまう」

 

そこでまず考えたのは、どうやって編集学校と重ねるかということだった。ネット上の風腰学園の記事を読みあさり、注目したのがライブラリ。学校の真ん中に設えてあることを、本を大事にする編集学校との結び目にした。

 

「わたしがここにいたからこそ浮かび出ることを大事にする」

 

福井の視点は、子供の表情を逃さない。ホワイトボードの不気味な顔の絵に、気持ち悪そうに顔をしかめる中学生。

 

「失敗も含めて、きれい事じゃない記事にしたい」

 

創刊当時内輪ネタの多かったエディストを、面白くないと感じたこともチラッと漏らし、メディアの読み手を意識することの重要性を強調した。


「物語にしたかった」

遊刊エディストJUSTチームの上杉。この春からチームを率いている。メンバーの注目ポイントが見事にバラバラなのが面白いと、夫々の興味に一緒に向かうディレクションを意識する深〜い包容力の持ち主。


康代学匠にサプライズを仕掛けた記事について質問を投げられると、「あれは寝耳に水だった」ことをあかす。エディストライターにとってもサプライズ、これは何かしたかったと当時を振り返る。守の学匠を10期つとめた節目、誕生日のサプライズとは分けが違う。くわえて松岡校長が引き出した「私もちょっぴり孤独になるんです」の一言で上杉の心は沸き立つ。笑顔の印象が強い康代学匠のぽろっとこぼした心情。どう伝えれば伝わるのか。


「サプライズであるからこそ、普段と違う康代学匠を引き出したかった」


舞台を降りた康代学匠を直撃し、赤のリップというキーワードを仕入れる。オーダーを変更して物語にするという設えを考える。文体でサプライズを表現して読者にも驚きを伝えたい。読み手に伝えるための意図を幾層にも込める。そうして書き上がった記事には編集工学が綾として織り込まれている。


「編集学校で起きていることを独り占めしたくない。書くことは苦しいが、続けることでえられるものがある」

 

社会と編集学校の出来事を照合、記事にし続ける上杉。書き続けるエンジンは遊刊エディスト。読み手の存在は書き手の背中を押してくれるのだ。

 

インタビュアーをつとめた得原藍師範(左)、森川絢子師範(右)

 

「ロールをわけよ。記事のことはライターが話す。」


リハで松岡校長の大幅なディレクションを受け、師範二人はわずかな時間の中でロールの意味を再考した。本番では相手の意識が前に向くよう、機をみて質問を挟み、後戻りさせないよう気を配る。質問は当初の3割まで絞ることで場にスピード感をだす。語りの中のキーワードを言い換え「マーキング」し、流れに句読点を打つ。このインタビュアーとしてのかまえが、二人のライターから多くの話を引き出した。

  • 西宮・B・牧人

    編集的先達:エルヴィン・シュレーディンガー。アキバでの失恋をきっかけにイシスに入門した、コンピュータ・エンジニアにして、フラメンコ・ギタリスト。稽古の最中になぜかビーバーを自らのトーテムにすることを決意して、ミドルネーム「B」を名乗る。最近は脱コンビニ人間を志し、8kgのダイエットに成功。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。