この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

廊下は走るな、教室で騒ぐな、寄り道はダメ、いい子でいなさい――。学校には禁止事項が多い。しかしこの学校は真逆だった。教員川野貴志は言った。「みなさんには、ふざけてもらいたい」イシス編集学校49[守]開講日の晩である。
基本コース[守]は、今期も近畿大学の学生24名を学衆として迎えた。近大といえば、近大マグロとして研究成果が知られる、人気がうなぎのぼりの私立大学だ。ビブリオシアターと呼ばれる図書館を松岡正剛が監修し、イシスとも縁が深い。編集術を身につけて、大学での学びに活かしたい。そう闘志に燃える24名が開講日の4月25日18時半、授業を終えた身でZoomに集い、特別なワークショップに参加していた。近大学生のみに用意された「交流会」である。
自分をお菓子に喩える「おかしなわたし」の自己紹介。それを聞けば、彼らの秘めたる熱意がわかる。
「私は非常食に使われる乾パンです。まじめで頭が固いと言われるけれど、切羽詰ったとききには役に立ちます」(脱皮ザリガニ教室K)
「私はくっつくとなかなか離れないガムです。やると決めたら、諦めずにやりきります」(三叉毘沙門教室N)
さすが選考を勝ち抜いた学生だけある。熱量も器量も度量も十分だ。そんな彼らに、近大番として今期も並走する川野貴志が伝えたのだ。
「中学高校で教員をしているとわかります。学年があがるほど、生徒の作る短歌や俳句がつまらなくなるんです」
社会化されるほどに、思考の自由が奪われてしまうのだ。イシス編集学校はそこに抗う学校である。
川野は続けた。「みなさんには、ぜひとも小学生のときの調子のった自分をひっぱり出してみてください。自由に考えることを思い出せるはずです」「ぜひ、ふざけてもらいたい」
近大学衆を統べる敏腕プロジェクトマネージャー衣笠純子も重ねた。「イシスではかたまった思考をほぐす場です。かけっこで野原を駆けまわったあのときのように、未知なる場で遊んでくださいね」
それを聞き、近大学衆はさっそく001番の回答を始めた。コップの使い方を問われるこのお題でも、彼らの思考はみずみずしかった。農学部のY(アニマ臨風教室)が「畑の水路の、ろ過装置として使う」と答えれば、国際学部のO(きざし旬然教室)が「バーニャカウダの野菜を立てる」と応じた。彼らはすでに、真面目にふざけることのコツがわかっている。近大学衆総勢24名、大人たちの凝った思考を軽やかに粉砕してゆくこと間違いない。
イシス編集学校49[守]近大番
衣笠純子、橋本英人、山本春奈、富田七海(編集工学研究所)
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梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。