この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

達成感や無力感、労いや悔い、希望や不安が、「言葉」となってはすぐに炎に包まれる。2022年12月18日の夜。「指南編集トレーニングキャンプ」のラストプログラムである「キャンプファイヤー」も、これまでの演習と同じく「言葉」だけで行われた。
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その炎に思い出す。筆者が[守]の学衆として稽古を終えたばかりのことだ。勧学会に交わし合いの場を設えた師範代は、小さな火を起こすと「色んな言葉をくべましょう」と誘った。その言い回しを気に入った私は、「ああ、イシス編集学校はメタファーの学校なのだ」と、どこか合点したものだった。その感覚は、5年経った今も変わらず残っている。
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2022年12月17日、18日と2日間を駆け抜けた花伝所のキャンプでは、実戦指南に加え、[守]38題をリミックスする翻案編集のお題が課された。時間的制約の中でのテキストだけの不自由なコミュニケーションに、入伝生のネガティブ・ケイパビリティも試されている。
言葉は期待したそのままの意味では届かない。思考を100%共有することはできない。私たちはいつも誤解し、誤配し、誤読する。しかしだからこそ、他者の言葉を引き受けることで、思わぬ発見の果実を手にすることができる。
わかりにくくてすみませんね…。そうそう、各象限で移りながらなんですが、その時に世界と自分に出入りしているものに注意をむけるとこんな感じに連環して型の取得までつながっていくのではないかと思ったんです。(い組 M)
継承者問題はありそうですね。でも、クイックに見につくものでもないと思いますが、もしクイックに継承者を作りたい!と思う方が居れば、それだけ切羽詰まっているという状況なのかもしれませんね。(ろ組 M)
即実践は大きいでしょうね~。忘れているものを取り戻したい感じのような。始めに連想をあげましたが、関係ありますかね。 その道のプロに必要な編集講座。不足はなんでしょう??(は組 A)
私も案2が良いかと思います。最初は、絞った方がやり易い?と思いましたが、複数の伝統的な芸道・武道が交わることで、共通項や新たな発想にも繋がるかと思います。これって、編集学校の教室と似てますよね。教室の学衆は、年代・経験値・職業などが異なるからこそ「共読」が生きてくるのだと思います。(に組 M)
求道者たちの表出と言い換えてみます。このロールの特徴は伏せがとてつもなく多く、容易に言語化しない。そこで、開け伏せの見直しが守38番を通してできるのがニーズで見出せませんか。まずは開け伏せを無意識に行うエディティングモデルのクセに自覚してもらうことなどが思い浮かびました。(ほ組 Y)
誰かにとって真を突いたつもりの言葉は、別の誰かにとっては遠くから届く「メタファー」性を帯びた言葉となる。そんな広義の「メタファー」から新たな意味を受け取る方法を、入伝生たちは既に手にしている。それは「花伝式目」において《受容》として記されている。
「比喩」(metaphor)は、ある事例をスライドしながら(ずらしながら)別の事柄に置き換えて考えることを可能にしてくれる。そうとうに強力な道具だ。ぼくはそのような比喩(メタファー)の発展と連鎖を「連想」とか「連想的編集力」とか「アナロジカル・シンキング」と呼んできた。
1540夜 『想像力を触発する教育』 キエラン・イーガン − 松岡正剛の千夜千冊
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「言葉」はときに独り言のようにキャンプファイヤーの火にくべられていく。燃え尽きたようにみえても消えてはいない。炎となり、隣の人の頬を照らす。煤となり、遠くの誰かの肌を汚す。誰かの記憶となり、いつかどこかで蘇る。
入伝生たちは、発した「言葉」が変容し遠くへ届けられることを恐れない。入伝生たちは、変質した「言葉」を読み返らせる(蘇らせる)ことを諦めない。それは「花伝式目」において《エディティング・モデルの交換》として記されている。
メタファーの語源は「メタ(むこうに)+ファー(転じる)」だ。私たちは、言葉が転じたキャンプファイヤーに心を焦がし、きっと《メタファーの交換》をしている。
文・アイキャッチデザイン 阿久津健(花伝師範)
【第38期[ISIS花伝所]関連記事】
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松岡校長メッセージ「イシスが『稽古』である理由」【38[花]入伝式】
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
マッチが一瞬で電車になる。これは、子供が幼い頃のわが家(筆者)の「引越し」での一場面だ。大人がうっかり落としたマッチが床に散らばった途端、あっという間に鉄道の世界へいってしまった。多くの子供たちは、「見立て」の名人。それ […]
43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
今まで誰も聴いたことがない、斬新な講義が行われた。 43花入伝式で行われた、穂積晴明方源による特別講義「イメージと編集工学」は、デザインを入り口に編集工学を語るという方法はもちろん、具体例で掴み、縦横無尽に展開し、編 […]
(やばい)と変な汗をかいたに違いない、くれない道場の発表者N.K。最前列の席から、zoomから、見守ることしかできない道場生は自分事のように緊張した。5月10日に行われた、イシス編集学校・43期花伝所の入伝式「物学条々 […]
発掘!「アフォーダンス」――当期師範の過去記事レビュー#02
2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テ […]
花伝所では期を全うした指導陣に毎期、本(花伝選書)が贈られる。41[花]はISIS co-missionのアドバイザリーボードメンバーでもある、大澤真幸氏の『資本主義の〈その先〉へ』が選ばれた。【一冊一印】では、選書のど […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。