この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

書くは永く、放つは刹那に。
師範代未満の入伝生は書き手であるが故に、しばし読み手を忘れて前のめり独りよがりな指南に陥る。回答に潜む可能性を欲するがため、想いが強く表出してしまうのだ。
どんなインパクトがあったのですか。
観客・師範代からどう見えたのかがよくわかりません。
(岡本悟師範)
想い込め放たれた指南に、情けも、容赦もなくバッサリと切る指導陣。回答に書かれている情報だけを読むのではなく、学衆が悩み考え抜き、どのような気持ちをのせて回答に至ったか、目に見えない情報も読み取る力も求められる。指南への指導は、方法の取り出しだけではない。
ちょっと大袈裟ですが「命がけ」で創文してください。
今回もまだ、詰めが甘い。
(牛山惠子師範)
師範代としてカマエはできていたのかと、心身ともに深く指導の言葉が突き刺さる。
「指南─指導─振り返り─再指南」を繰り返すことで、己の不足を避けず真っ向から勝負と言わんばかりに向き合い、磨き、方法に抱かれ、道場で身につけた花伝式目を遺憾なく発揮すべく錬成場で鍛錬が続く。そう、何かが熟するにはつねに「時熱」というものが必要である。
古池や 蛙飛ンだる 水の音
芭蕉が詠んだ句であるが、似ているけれど何かが違う。実は、「古池や蛙飛こむ水の音」という一句ができる前に、最初はできの悪い句から始まっていたことはご存じだろうか。芭蕉は、弟子たちに上五を考えさせると宝井其角は「山吹や」を提案。
「古池や」とするか迷いを芭蕉は隠さない。方角は、「西東」がいいか、「東にし」がいいか、いろいろ置き換えてみる。
(初)古池や 蛙飛ンだる 水の音
(後)山吹や 蛙飛込む 水の音
(成)古池や蛙飛こむ水のおと
世に放たれた句の形に成るまでに、情報を何度も「乗りかえ」「持ちかえ」「着がえ」と推敲を重ねる。師範代が書く指南も同じく、一時で仕上がるものではない。編集の技を駆使して鍛錬していくには、時間と熱意が不可欠である。今も錬成場ではカンカンと回答の鋼を叩き、切れ味に凄みと遊びも潜ませて指南の宝刀を磨くべく火花をまき散らしている。
書き重ねて変わりゆく指南は永遠ともいえるほど時間が過ぎ去っていく。
指南を待つ学衆のため、放つときは一瞬でしかない。
文 堀田幸義(錬成師範)
アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。