この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

賑やかだった道場が静まり返った。
言葉が交わされていないのではない。錬成演習を前にした気負い、緊張が道場内の言葉から夾雑物を奪う。
5月16日から開始した式目演習、道場生はすでに4つの式目をくぐり抜けた。師範からの指導、道場生同士の共読、火花を散らすような応答も重なり、道場生は自らの指南を磨き続ける。
「ハラハラドキドキがとまりませぬ」、だからこそ歩みを止めないやまぶき道場のK。動かし続けることが編集の要訣と心を決め、自らの指南を塗り替えつつ、発見的に道場生と交し合う。「お題研究フソクを感じて手に汗握る」からたち道場のEも稽古に余念がない。錬成師範の牛山惠子はその姿に「道着を洗濯して帯を締め直す」様を見てにんまりした。
錬成演習は花伝所における守破離の離。式目演習で叩き込まれてきた「型」をフル回転させ、編集的自己を確立する2週間が始まる。
実は擬装は「日本」をつくりだすための、「日本」というのがおおげさならば「くにぶり」(国風)をつくりだすための、必要不可欠とはいわないが、きわめて有効な世界像装置だったのである。
M5で学ぶのはゲームメイキング。それぞれが式目演習でイメージした教室像を形にしていく。名づけ、シツラエから始まる世界定め。30人の「歌合せ」が道場を彩る。先達を真似び、肖る、この虚に没入するプロセスが自己進化を加速させる。錬成演習では、道場生は師範代に着がえ、自らお題を出題する。最初に応じる錬成師範に知った顔はいない。これもシツラエの一つ。実際に師範代登板したら、会ったことのない学衆に相対する。細部にまでわたる仕掛けで道場生は自らの編集的自己を立ち上げるはずだ。指導にも忖度はない。出題のダンドリの微々たる揺らぎにも檄が飛ぶ。指南文の不足に容赦なく突きつけられる指導の切っ先に道場生は真っ向から応じ、即時でフィードバックを重ねていく。
30人の道場生に対し、師範陣は15人、総勢45人による乱取り稽古。否が応でも熱量が上がる。錬成演習は異界へのとば口。道場生は未知の師範代ロールに向かい、擬いて模してその際に差し掛かる。
指導陣もまた静かに道場でその時を待っている。
文 佐藤健太郎(錬成師範)
アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)
【第37期[ISIS花伝所]関連記事】
37[花] 花林頭・阿久津がゆく、アートとデザインのAIDA
37[花]乱世に道場開幕!
37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を
37[花]ガイダンス 却来のループで師範代に「成っていく」
37[花]プレワーク 編集棟梁は 千夜を多読し ノミを振る[10の千夜]
37[花]プレワーク記憶の森の散歩スタート
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
マッチが一瞬で電車になる。これは、子供が幼い頃のわが家(筆者)の「引越し」での一場面だ。大人がうっかり落としたマッチが床に散らばった途端、あっという間に鉄道の世界へいってしまった。多くの子供たちは、「見立て」の名人。それ […]
43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
今まで誰も聴いたことがない、斬新な講義が行われた。 43花入伝式で行われた、穂積晴明方源による特別講義「イメージと編集工学」は、デザインを入り口に編集工学を語るという方法はもちろん、具体例で掴み、縦横無尽に展開し、編 […]
(やばい)と変な汗をかいたに違いない、くれない道場の発表者N.K。最前列の席から、zoomから、見守ることしかできない道場生は自分事のように緊張した。5月10日に行われた、イシス編集学校・43期花伝所の入伝式「物学条々 […]
発掘!「アフォーダンス」――当期師範の過去記事レビュー#02
2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テ […]
花伝所では期を全うした指導陣に毎期、本(花伝選書)が贈られる。41[花]はISIS co-missionのアドバイザリーボードメンバーでもある、大澤真幸氏の『資本主義の〈その先〉へ』が選ばれた。【一冊一印】では、選書のど […]
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。