この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

遊刊エディストの新春放談2024、其の弐をお届けします。2日目は、2023年に大活躍したこのエディストライターをゲストにお呼びしました。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 梅澤奈央 師範、上杉公志 師範代,穂積晴明 方源 松原朋子 師範代
◎ゲスト◎
エディストライター、倶楽部撮家、ワークショップエディター
福井千裕 師範代
吉村 ここからはゲストとともに2023年を振り返ったり、2024年を予測したりしていきます。今年のゲストお一人目はこの方です。
福井 どうも、福井千裕です。
吉村 ゲストでは誰に声をかけようかと思ったら、やはり一番に名前が挙がったのが福井さんでした。初登場してもらおう、と思ったら、去年の新春放談にもちょっと出てもらっていたんだね。
福井 当時は師範代をやっていて、写真チームの倶楽部撮家に参加もまだ全然できていなかったんですが、倶楽部撮家枠で声がけいただいたので、おもしろそうだなと参加してみたんですよね。
吉村 2023年は、カメラ、編集力チェックの師範代、ワークショップエディター、そしてJUSTライターはほぼ皆勤賞。さらに[守]伝習座で用法解説まで。めざましい1年でしたね。
福井 色々情報をいただいて、来てどうぞという呼びかけをくださるので足しげく通っていただけなんですけど(笑)
上杉 JUSTチームを担当する身としては嬉しかったんです。コロナ禍になり、リモートで行われるものが多くなり、編集学校で起こっていることが、ますますわかりづらい状況になった。自分は豪徳寺に行ける環境だったので、伝習座や感門之盟といったさまざまな場面をJUST記事として書くことになりました。
このような現場は、いいかえればイシスの編集の最先端の場所です。学ぶこともおおくて、こんな機会を自分だけが体験していていいのかな、という思いがでてきました。
そこで、吉村林頭と対話をしながら、いろいろな方が「JUSTライター」というロールでイシスの最先端の現場に参加できるていただける機会をつくろうという話になって、JUSTライターのラウンジを立ち上げました。福井さんは、こうした取り組みへ最初に呼応してくださったお一人でした。
福井 ざっと数えてみたんです。3月~12月のイベント出没回数は85回くらいでした。本楼でリアル参加したものが8割ですかねぇ。
上杉 多いときは週4〜5回は豪徳寺にいる、ということもあったんじゃないですか?
福井千裕のエディスト的クロニクル
2022年9月 倶楽部撮家に参加
2022年9月 エディストに初記事
リアルで集った唯一の教室―【79感門】49[守]きざし旬然教室
2023年1月 新春放談に倶楽部撮家の新メンバーとして初参加
2023年2月 JUSTライターチームに参加
“イシス大好きなのでなんでも興味あります♪ 思い切って未知へ向かっていきたいなと思っています^^
そして、書かなければ消えてしまうイシスの物語をひとつでも多く残していけたら嬉しいです。”
2023年3月 JUSTライターとしてデビュー、初記事
なぜイシスはおもしろいのか:康代[守]学匠メッセージ【81感⾨】
2023年4月 編集力チェックの師範代として参加
2023年7月 [花伝所] 敢談義にゲストとして登壇
2023年8月 ワークショップエディターでデビュー
2023年9月 [破]伝習座の文体編集術解説でインタビューをされる
“ライターの身なのに伝習座にお招きいただき、師範の方がインタビューしてくださったのですが、
学匠番匠師範のみなさんには事前打ち合わせやリハ含めてとてもお世話になりました。
[破]ボードのみなさんへ感謝です”
2023年11月 [守]の伝習座で、師範を差し置いて用法4のレクチャー
2023年12月31日 23:00 滑り込みセーフ、兎年のしめくくりとして通算37本目の記事を投稿
2023年、もっとも沸いた編集ワークショップはこれだ!笑いと拍手が渦巻く「子ども編集学校」
上杉 3月以降12月末までに37本の記事をつくられています。福井さんは、エディットツアーでは、ナビゲーター役であるワークショップエディターを担当されるだけでなく、ほかの方が登壇するほぼすべてのエディットツアーにも、ライターとしてお越しくださっていましたね。
福井 顔が見える場所でやっていること自体、そういう場があるということ自体に、うずうずしちゃうんです。
吉村 何事も新鮮にとらえられるところがあるというのは、才能かもしれないですね。きっとご家族や夫婦仲も円満じゃないのかな、すべてが新鮮、まいにち新鮮とか?(笑)
福井 伝習座や入伝式とか、いろいろなイベントがあるとは思っていたんですが、それらに参加してもいいといわれたら、もちろん出たい。生で聞けるなら、毎回ライブに行けるみたいな感じで。
吉村 推し活みたいな? 軽井沢にも来ちゃいましたしね。
福井 風越学園と編集学校のコラボワークショップでしたから。
上杉 風越学園の理事長、本城慎之介さんは福井さんの教室の学衆だったのですよね。本城さんの記事は、すごく影響があるというか、大切な記事だなと思うんです。
福井 ただごとではないと思ったんですよ。学衆さんのところでやるというし、しかも吉村林頭がワークショップをされるとあれば、行かなかったら一生後悔するだろうなと思ったんですよね。仕事よりもこっちだと。逃すまい、という感じでした(笑)
上杉 はじめて吉村さんのさわやかな笑顔の写真を拝見できたのもこのときでした(笑)
福井 この時の写真は倶楽部撮家の宮坂由香さんの撮影でした。
後藤 倶楽部撮家、みなさん腕がいいんですよ。
福井 吉村林頭が、登壇してしゃべるときではなくて、終わった後などに、マイクを持っているところではないところで、ぶつぶつ感想をつぶやいているのがいつも楽しみなんです。今日はなにを聞けるのかな、と。しかも、自分と直接話しているのではなく、吉村さんが誰かと話しているのを聞くのが好きです。のぞき見できるのが楽しいというか。
吉村 遠慮なく立ち聞きしているところが記者魂ですよね。もっとこうしたほうがよかったとか、誰々のメッセージはここが甘いなあ、とか、そういう話をしているからね。
福井 林頭の全方向フィードバックを自分事のようにきいています。
吉村 そんな2023年はどうでしたか。
福井 まったく予想外な、こんな1年を過ごすとは思っていなかったんです。上杉さんに声をかけられ、後藤さんに声をかけられ、ワークショップエディター(WSE)に声をかけられ、、、というかんじで、予想もしない方向に進むのは楽しいです、あ、はい(笑)。
吉村 自分の中で変化はありましたか?
福井 変わったのはいろいろありますね。モノが流れてきたら拾ってやろう。拾って中を開けてみよう、スルーせずに、という気持ちになっていますかね。やっぱり、記事にしてアウトプットする気持ちが高まっているので、目の前で起こっていることの何を記事にしようかなというようなフィルターで見るようになりました。
吉村 福井さんの用法4の解説を聞いていても、方法意識が高いと思いました。オノマトペでモードを意識して、記事の質感をつくろうとしているとか。 注意のカーソルが多層化していているところとか。
福井 ”オノマトペ”は、穂積さんが昔のオツ千で校長からディレクションをもらった話からヒントをもらいました。校長が穂積さんにデザインのディレクションをすることがあるという話をしていたんです。Feel の言葉をつかうんだ。もっとガツンとくる感じ、ということをきいて、そのディレクションの話が頭に残っていて、記事を書くときにオノマトペ的な感じや Feel な言葉、手触り的なことをどんなふうにしようかな、ということをイメージしています。そうやって書いていくと、全部が同じ手触りの記事にならずに済む。逆に意識しないと、ぜんぶ記事が同じ印象になりがちかなと考えていたので、オノマトペでアウトプットの手触りを意識していますね。
吉村 方法として、そのほかに意識しているものはありますか?
福井 いろいろありますが、社会と接続するという接面にエディストがあるので、そこを意識していて、社会的なネタとイシスの内部のネタを、どう組み合わせようかなということを考えているんです。
福井 ほかにも、“バナナと魯山人”。それぞれをモジュールとして切り出してインタースコアすることだと思うんです。たとえば、本楼のエディットツアーは、ただ記事にしようとすると、どれも次第が似ているので同じものになりがちです。少し前に書いたものは、マリリン・モンローをだして、エディットツアーをインタースコアしてみました。そう、変わったことといえば、遊べるようになりましたね。はじめは記事を書くとき緊張していたのですが、今は遊び心のある記事を書きたいなと思っています。
マリリン・ホンローの誘惑【本楼エディットツアーレポ】
上杉 やっぱり方法を意識することで、様々な切り口で記事を書き続けられるのですね。
福井 そうですね、あと、方法ということでは、“柔らかいダイヤモンド”的な感じをもっとだせたらいいな、と。どうしても、今あるネタだけで調理しようとすると、いつも同じの味付けになってしまうのですが、もっと“ないものフィルター”を使って、ゆさぶるような言葉とかを散りばめられたらいいなということは、これからやってみたいことです。
吉村 特に風越学園の記事の時も、僕の意図を受け取ってもらった、という感じがしたんですよ。ここだというポイントをくみ取りながら、余分で余韻を残してくれているというか。書ききれないものを含めて感じさせてくれるというのが、書いていただいたほうとして嬉しいのですよ。
福井 どうしても違う人間が書いているので、意図が伝わらないところがあると思うんですが、できる限り、その人の思いとか、意図とかをまねられたらと思ってやっています。上杉さんから共有していただいたことですが、発せられたことをそのまま書き起こすのは誰でもできるが、そうじゃなくて、この人が言いたかったことを、言葉を加減したり、なかった言葉をもってきたりしながら表現する、と。
校長はよくいくつもの例示を重ねて話をなさいますが、書くときに、もうちょっと言葉をそろえたら校長っぽいのかなとか、校長はこれを言いたかったんだろうなというものを持ってきて、前後を変えたりしています。意図の模倣というところができればいいなと思っています。
吉村 校長も、福井さんの活躍をいつもコメントしていますけれども、トレーサビリティが素晴らしいということを言われていました。今年もさらに活躍してもらいたいんですが、福井さんとしては2024年の野望はありますか。
福井 野望ですか? うーん、吉村さんが昨年、ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』を貸してくださって、「福井さんなら、守をパサージュ論にできるでしょ」とお題をいただいたんです。2024年、なにかエディストで形にできたらいいなと思います。
金 ベンヤミンの敷居学というのは要するにお題づくりですよね。資本主義社会と言えばいいのか民主主義社会と言えばいいのか、現代社会というのは瞬時にして物事を平均化、複製化してしまうから、まったく油断できません。それに抗うには福井さんのパッサージュなセンスがどうしても必要です。今後もイシスのアウラをドラァグアウトし続けてください。
上杉 どんな企画が始まるか、また楽しみですね。
福井 せっかくなので、遊びたいですね。
吉村 編集の国で、世界遊びをぜひしてほしいです。
後藤 最初はエディストでカメラ部に入ってもらったのに、JUSTライターに福井さんを取られてしまい、少々嫉妬しているんですが(笑)、倶楽部撮家の活動もぜひお願いします。
福井 後藤さんが毎回本楼にいらっしゃるのが大きくて、後藤さんの姿を追いかけている感じがあるんですよ。
後藤 これからは、イベント撮影も倶楽部撮家で分担してやっていけるといいなと思っています。いろんな人が書いているのがJUSTライターのいいところ。私の写真が飽きられる前に、倶楽部撮家でもいろんな人に撮影してほしいなと(笑)。例えばカメラマンのペアでセッションしながら撮るってことも、やっていきたいですね。
吉村 写真も記事も、福井千裕の龍飜魁頁に2024年ますます期待しています。
※ゲストお二人目との放談は3日に公開。「其の参」をお楽しみに!
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2024年 新春放談
其の壱 – 登り龍のごとく「E」が時代を翻す(1月1日 0時公開)
其の弐 – 方法の意識で良記事を次々と生み出すヒト (1月2日 公開)(現在の記事)
其の参 – ISISな祭りを復活させるレジェンドなラジオ男(1月3日 公開)
其の肆 – 町に、子どもに、大人に、編集の小さくて大きい種をまくヒト (1月4日 公開)
其の伍 (1月5日 公開予定)
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。