この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

遊刊エディストの新春放談2024をお届けします。2024年はエディストが創刊5周年を迎えます。イシス編集学校で各種講座やイベントでエピソードが生まれるたびに、エディスト上で物語が綴られてきました。2023年12月31日での公開記事総数は2957本にのぼりました。常に社会と交差しながら編集の最先端、イシス編集学校の旬を伝えるメディアとして、ご愛読しつづけていただいている皆様には感謝しつくせぬ思いです。2024年のスタートは今年も、編集部メンバー、そしてゲストたちとの放談でお楽しみください。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 梅澤奈央 師範、上杉公志 師範代,穂積晴明 方源, 松原朋子 師範代,
◆「E」が登り龍となる2024年
金 2024年がはじまりましたよ。
後藤 エディストで迎える5回目の新春放談ですね。
吉村 いやあ、あけましておめでとうございます。
金 ここのところ恒例の吉村林頭&穂積くんで制作する編工研の年賀状はどんな具合ですか。
吉村 今年の年賀状の四字熟語は「龍翻魁頁」です。編集龍が翻り、時代の新しいページを魁けるという意味を込めています。
穂積 デザイン的にはページのめくれを富士に見立て、昇り龍を「E」の字にすることで、「E」が新たな頁をめくりながら昇っていく様を表しました。
金 「E」と言えば、私と林頭は「E.D.」をスタートしました。
上杉 公開から24時間で消えてしまう、エディスト初の時限付き幻記事なので、ご覧になっていない方もいるかもしれないですね。
穂積 取り上げられないタブーものに挑む方針は画期的ですよね(笑)年賀状も「E.D.」とは異なるものの、十牛図とか、ボルヘスの虎とか、来迎図とか、あまり話題に上がらないけど大事なモチーフにあやかりたいと思っているんです。年は横山大観 《群青富士》と鈴木其一 《富士昇竜図》の“一種合成”を意識しながら、地・天・宙へと翔ける龍の景色を、富士や赤雲や北斗星に託しました。一富士二鷹(龍爪)が揃って、めでたい感じになりました。
吉村 年賀状デザインは校長の最終OKをもらうんですが、今年は1回NGがでて、だいぶ苦労しましたね(苦笑)。穂積くんと唸りながら考えたものです。でも、めでたく仕上がりました。
マツコ 吉村屋!めでたい!
◆新年には「物語の書き換え」が必要だった
吉村 2023年の始まりを思いかえしていたんですがね、正月早々に事件がありました。 “2050年を目指して「日本イシス化計画」を推進”と、新年に手帳の裏にそう書いたんですよ。そうしたら、正月早々に松岡校長からそれでは遅すぎる、期間を5年にするようにと言われまして、2028年を目指すことになったんですよ。
金 編集や編集工学を日本のインフラにしたい、と宣言したのが2023年でしたよね。それなら、もう達成まであと4年しかないですね。
吉村 あとでも触れますが、編集学校に集う多くの方々が、編集工学が広まるといいなということは思っていただいていると思うんです。でも、「編集工学が確実に広まるに違いない」と思う人がどれぐらいいるか。2024年は皆さんと認識を変えて、新たな物語に向かっていきたいんですよ。そのためにさらにご一緒にいろいろ起こしていく2024年にしたいですね。
上杉 2024年は認識の転換の年になりますね。転換といえば、後藤さんがインスタ動画をどんどんつくりはじめたのが、昨年でしたよね。
後藤 そうですね、林朝恵さんと一緒にいろいろプロデュースしはじめました。
吉村 千夜千冊エディション『サブカルズ』のインスタライブは4月でしたね。あれは個人的にはハイライトでした。
【オツ千番外編4】初インスタライブ!『サブカルズ』第一弾 クールに消費社会を編集
後藤 3日連続のライブを穂積さんと吉村さんにしていただいて、最終日には、松岡校長が冒頭から観覧席でご覧になっていて、すごいプレッシャーだったんですよ。
吉村 今までになくしんどかった。ライブだからごまかせないし(笑)
後藤 楽しかったですけれどもね。本当のライブでしたから。
◆瞬く間に始まった記者軍団、JUSTチーム
上杉 感門之盟で、JUSTライターの皆さんが活躍しはじめてくださったのが、やっぱり2023年です。
マツコ なんだかもっと昔からな気がしませんか。梅澤さんと上杉さんとで、JUSTライターのための書き方ワークショップを最初に開催して、キックオフしましたね。
ウメ子 あれは春の感門之盟の直前でした。そのワークショップ自体を、みなさんがネタとして記事化してくださいました。同じ体験をしていても、それぞれ見方が違うことがはっきり見えておもしろかったです。ひとつのイベントを、みんなで共読・共筆しているかんじが。
編集記者ウメコが秘伝のNGルールをついに開示!? (畑本ヒロノブ)
ネタのタネ ウメコが明かす取材の奥義@JUSTライターデビュー直前講座(清水幸江)
気まぐれ猫を惹きつけろ! 遊刊エディスト ライティングのコツ(北條玲子)
吉村 真面目なことを言うとね、Edistというメディアを立ち上げる時に、松岡校長とドミニク・チェンさんの著書『謎床』にあった、“ぬか床”のようなメディアをつくりたかったんです。みんなが手を入れることで愛着が生まれるメディア、みんなが手を加えないと腐ってしまうメディアだということなんです。
もうひとつは、エディストのトップに“編集の国ISIS”と書いてあるけれど、国であればいろいろな情報が共有されていて欲しいと考えていた。
たとえば、噂やニュースや新鮮なものが届いたり、予測・予想なども出回っていたりしないといけない、そういう情報があって“国”になっていく。なので、講座のことは講座関係者しか知らないのではなく、みんなが知っていたり噂したりしている状態にしたいということが、もともとの狙いとしてあったんですね。なので、JUSTライターの功績は実は大きくて、JUSTライターの皆さんが、編集の国メディアとしての大切なところを担ってくれています。
上杉 現役の師範・師範代を兼任しながらの方々や、仕事が変わった方など、いろいろいらっしゃるけれども、福井千裕さんや阿部幸織さんや、畑本ヒロノブさんもこつこつと、その方々らしい記事が積み重なってきています。皆さん、すごく楽しんでやってくださっているようです。ほんとうはJUSTライター全員のお名前を紹介したいところなのですが、あえて伏せておきます。Edistをご覧になる時は、ぜひ記事下方のライター情報までご注目いただけたら嬉しいです。ライターあってのEdistですから。
JUSTライターが大活躍した第81回感門之盟 全記事
【第81回感門之盟】律走エディトリアリティ Day1 公開記事総覧
【第81回感門之盟】律走ダイバシティ Day2 公開記事総覧
◆書籍と編集学校メディアの連動も多重に
吉村 春の感門之盟のタイトルは「律走エディトリアリティ 」でした。松岡正剛校長の『知の編集工学 増補版』が出版されましたが、特に加筆されたのが、エディトリアリティの節でした。ヴィーコの『新しい学』をひいて、真らしさ、偽らしさを含んだ新しい学が必要ということが強調されていましたね。
穂積のデザインで装丁が新しくなったのも一つの事件と言えますね。
後藤 インスタ動画でも、穂積さんがデザインについて語ってくださり、妥協なく準備してくださいましたね。みなさんにも視聴いただきたいです。
吉村 2023年は、穂積くんは『知の編集工学 増補版』の装丁をやったり、AIDAのデザインも素晴らしかったが、感門之盟のタブロイドは毎回いいよね。仕事で印象に残っているのは?
穂積 色々やりましたが、常にエンジンとして効いていたのはオツ千ですかね。千夜千冊エディションの『編集力』を一気にオツ千でやり始めたのが大きかった。カジュアルなものとハイなものの融合にこそやりがいがあると感じていますが、オツ千のサムネイルはそのいちばんの実験場として使わせてもらっています。デザイナーとして、『編集力』の中身は現代のあらゆるテーマの中でも最も深いものなので、その価値を損なわずカジュアルに抜けるか、この問題意識は2024年以降のとっかかりにもなるだろうと考えています。
上杉 書籍関連では、エディスト編集部の川野貴志さんや、編集学校メンバーが関わった松岡校長の『国語力』が出版されたのも2023年です。
金 読書といえば、2023年は、多読ジムスペシャル「今福龍太さんを読む」を実施しました。多読スペシャルはすでに名物講座となりつつありますね。毎回、新しいお題を用意し、ゲストも熱意を持ってコミットしてくれて、だからこそ修了作品も読了式もすばらしい。次回は「鴻巣友季子を読む」です。翻訳やクリエイティブライティングに挑戦します。どんな読衆さんが集い、どんな場が生まれるのか、今から楽しみです。
上杉 編集学校周りで数々の動きがある中、JUSTチームや倶楽部撮家をはじめとして誰よりも活動に足を運んで、編集学校のバンキシャ役として突出していたこの方を、新春放談一人目のゲストとしてお迎えしました。
※ゲストお一人目との放談は2日に公開。「其の弐」をお楽しみに!
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?2024年 新春放談?
其の壱 – 登り龍のごとく「E」が時代を翻す(1月1日 0時公開)(現在の記事)
其の弐 – 方法の意識で良記事を次々と生み出すヒト (1月2日 公開)
其の参 – ISISな祭りを復活させるレジェンドなラジオ男(1月3日 公開)
其の肆 – 町に、子どもに、大人に、編集の小さくて大きい種をまくヒト (1月4日 公開)
其の伍 (1月5日 公開予定)
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。