2023新春放談 其の参 – 言語聴覚士は、迷いながらもメタファーで綴り続ける

2023/01/02(月)09:00
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年賀状デザイン2023

遊刊エディストは創刊から4回目の新年を迎えました。今年も、編集部恒例の「エディスト新春放談」をお届けしてまいります。エディスト・ライターやニューカマーをゲストに招き、2023年の新たな展望に野望、夢想に妄想まで、新春から放談していきます。今回の「其の参」は、2022年のニューカマー、コラムを開始したあの方です。どうぞお楽しみください。

 

◎遊刊エディスト編集部◎

吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 松原朋子 師範代, 上杉公志 師範代, 梅澤奈央 師範,穂積晴明 デザイナー

 

◎ゲスト◎

竹岩直子師範代

 

吉村 新春放談、最初のゲストは、2022年エディストの新人、竹岩直子師範代です。

 

川野 発話、飲む、ということで、言語聴覚士としての視点を編集と重ねたコラムを担当してくださっていますね。

 

竹岩 テーマが狭いんですが…。

 

マツコ 最初のコラム” 嚥下”が出たときには、こんな風に書ける方がエディストに参加してくださったんだなぁとシミジミ…。

 

川野 まだかける、ネタも一杯あるぞという状態か、そろそろ苦しくなっているのか、感触や展望はどうですか?

 

竹岩 まだ5回しか連載をあげられていないんです、ペースが遅くて。悩んでいるのは、言語聴覚士の視点でやっているので、いくらでもこじつけて書けると思うんですが、“食べる”を終わって“話す”、“声”、“共鳴”に行ったら、次は“聴覚”のあたり、そしたら“書字”、“読む”、“理解する”、“失語”、“失認”…。テーマはたくさんあるのですが、書きながら流れを考えていくのでもいいのでしょうか。たとえば発声をテーマにするなら、5個ぐらい関連する塊を思いつくんですが、全体像を考えているわけではないのです。最初に系統樹などでまとめているわけではないので、その辺がどうかなと思っています。

 

竹岩直子師範代

川野 何について書くかを決めるのは、見たり聞いたりしたことから書いているんですか?

 

竹岩 今は大学病院に勤務していて、そこでの勉強会で勉強したことをテーマに書いています。あとは、日常で枯葉を見て感じたこと、というようなところから。 

 

川野 吉村さんとのやり取りの中では、どれぐらい文章が変わっているんですか?

 

吉村 あの、川野さんは竹岩さんの中高時代の担任だったのですよね、普段からお二人はこんなかしこまった話し方なんですか?

 

川野 いやいや、それは、ね(笑)こういうところですから。

 

竹岩 ふふふ。

 

吉村 僕が指南担当させてもらっていますが、最初の頃はもらった原稿ほぼそのままで掲載していました。最初から素晴らしかった。でも、最近は1、2回ほどは書き直しをお願いしていますよね。いま発話とかのほうに話題が移ってきているんですが、そうするとメタファーが効きにくいのではないかと感じています。声を出すというのは言語行為そのものですから。“吸啜”や“嚥下”の方が、メタフォリカルにしやすい。 

 

竹岩 メタファーのことは私も思っていたんです。ちなみに“発声”の次は、、声の質を表す”嗄声”や50音を作る”構音”などに持っていくのが面白いかなと考えています。メタファーを考えるとき、古語・古典でそういうものがないかなとか、植物と重ねたりもするのですが、テーマが“話す”になってくるとどうなるか考えながら書いています。

 

竹岩直子師範代

竹岩直子師範代は色々な表情をうかべて話をしてくださいました

吉村 [破]でいう5つのカメラが竹岩さんはいい。歩きながら見た風景やそのときの心の動きから入っていきながら、途中や締めにもその導入が効いている。構造的にもしっかりしていて、言葉も推敲されたもので、ラストでもタイトルや頭が引き取れている。特に、言語聴覚士としての生きている姿勢や、情報に向かう目線が凛としているのがいいと思います。今後もあまり知的偏向には向かわないで、竹岩さんの感覚を丁寧に言葉にしていくといいのではないかと感じています。

 

川野 僕もかつて言語学をやっていたので、発音や調音を懐かしく読むんですが、患者さんとの動向と結び付けて書いているから、僕が感じている分野の事柄よりもずっと生々しいし、蝕知的。そこが読んでいて、自分が知っていたところに新しいものがかぶさっていくような面白さを覚えるので、今後、知的な方に行かないでほしいというのは、吉村さんの背景とちがうかもしれないが、偶然の一致ではないですが、同じようなことを感じますね。

 

竹岩 実は私の記事はエディストでは浮いているなと思っていまして、いま川野さんがおっしゃったような、「知」の部分が自分には圧倒的に不足しているのではないかということで、方向性をどう進めたらいいのかを、実は迷っています。

 

川野 浮いているのではなくて、立っているのだと思いますけれどもね。

 

後藤 私もそう思います。

 

吉村 僕らもそう思っているんですが、校長もそう思っていますよ。注目していることは伝わってくるので、自信をもってやってもらうことがいいと思います。文章だけで、本になってもいいかもしれないと思うものは少ないですが、竹岩さんのエディスト記事にはそれを感じることがあります。

 

後藤 拝見していて、まずをもって読み手として竹岩さんの記事はすーっと体に入ってくるような、純度が高い気がするんです。アイキャッチの写真にも、竹岩さんの人となりが表れているなと感じる貴重な記事だと思っています。私の中では、丸洋子さん(編集用語辞典)、竹岩さんがツートップ。香り高き、貴重な女性ライターとしての道なき道に立っていただきたいという希望があります。

vol03.吸啜【言語聴覚士ことばのさんぽ帖】のカバー画像。すべて写真もご自身が撮影している。

 

川野 書くこと自体のモチベーション、原動力、執着はもともとどこから発しているものですか?

 

竹岩 書かないと、立っていられないことも多いんです。メタファーとか心象って、人には言えないようなポエムじゃないけど、この人アレなのかなと思われたりしがちですが、自分の中には溜まっていくし、書いたら眉を顰められちゃうかなと思うから、いつも携帯や日記の中だけで。書くことをしないと溺れちゃう気がしています。

 

川野 書かないといられないということがあるわけですね。

 

竹岩 昇華していかないと、というところなんですが、私の文章はイシスっぽくなくて、そぐわないのかな。書き続けてもいいのかと思っています。

 

吉村 「イシスっぽい」が何を指しているかですが、エディスト記事はバリエーションに富んでいるのがいいんですよ。それぞれの持ち味である編集力が出るような書き方をしてくれるといい。そう思うと竹岩さんの書き方はそれが出ていると思います。

 

上杉 竹岩さんのコラムは「エディティング・キャラクター」がテキストからにじみ出ていて素敵だなと思っているんです。言語聴覚士のお仕事は“嚥下”と“咀嚼”から始まるところからも、竹岩さんのお仕事のらしさですよね。また、以前「いつか絵本も書きたい」とおっしゃっていたように、言葉をとにかく大切になさっていることが本文に触れると伝わってくるんです。

 

夏の芥川賞・直木賞の書評記事でも、多様な職業の方々による書評が並ぶことで、その職業性の差異によって読みが深まりました。この読書体験はイシスの特徴であり、そのためにも、竹岩さんのようにエディティング・キャラクターを発揮なさっている方々がこれからますます増えてほしいなと思っています。

【ISIS BOOK REVIEW】直木賞『夜に星を放つ』書評 ~言語聴覚士の場合  では、言語聴覚士を地に書評を書き綴った。

 

竹岩 みなさんにそうおっしゃっていただけたら、安心しました。1カ月にひとつは投稿をするというつもりで頑張っていましたので、発話、話すというメタファーの悩みもありながらですが、林頭にやり取りしていただいて、自分の切り口で書けたらな。遅いですが、できるだけ続けさせていただけたらと思っています。

 

川野 2023年も楽しみですね。

 

 

其の肆」へ続く…

 

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2023年 新春放談

 其の壱 – エディストは「卯報雲展」なメディアになる (1月1日 0時公開)

 其の弐 – [守][破][花]の卯年、エディティング・キャラクターの突出へ向かう (1月1日 19時公開)

 其の参 – 言語聴覚士は、迷いながらもメタファーで綴り続ける(1月2日 公開)(現在の記事)

 其の肆 – 2023新春放談 其の肆 – カメラ部の2年目は“ISISビュアル祭り”を!(1月3日 公開)

 其の伍 – YADOKARIの野望?夢想?「指南・多読・意匠」への思い(1月4日 公開)

 其の陸 – 編集部の卯年、跳ねて弾けてさらなる編集的高みを目指す!(1月5日 公開)

 

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。