この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

遊刊エディストは創刊以来3度目の新年を迎えました。2022年も「新春エディスト編集部放談」をお届けしてまいります。
2021年は皆さんにとってどんな1年でしたか? 大活躍のエディスト・ライターやニューカマーズをゲストに招き、過剰に過激に放談します。2022年が格別な編集イヤーになりますよう、放談連載を読んで幸先のよい編集スタートを切っていただきたく。其の参では、「編集かあさん」こと松井路代師範代との深いトークが炸裂です。お楽しみください。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 松原朋子 師範代, 上杉公志 師範代, 梅澤奈央 師範,穂積晴明 デザイナー ,松井路代 師範代
川野 ではでは、新春放談に私がお呼びしたゲストに登場いただきます。昨年、松岡校長にアドバイスをいただく機会がありまして、その時にもこの方みたいに書かないとダメだと話がありました。
なにが素晴らしいかといえば、分からなかったり、はっきりしなかったりすることをそのまま持ち込んで文章で扱っていかれるのはこの方しかいないと。大人が子供の学ぶ姿を描くと、本当は大人が分かったり出来たりすることに挑戦してキミも頑張ってるね、ということを書くことが多い。でも、編集かあさんって大人もわからんことをばしばし扱っている。
例えば、ジャガイモの種の記事がすごくて、ジャガイモって実とかタネとかあるんですねって、まじで驚きましたし。編集かあさん自身も、知らないこと分からないことに一緒に出くわしていること、それをずっと続けるのはすごいと、記事を見ていて感じるところですね。
ゲストは、ずっとコンスタントに続けてくださっているのがとてつもなくすごい、編集かあさんこと松井路代さんです。
松井 あけましておめでとうございます!
吉村 コンスタントに執筆されていますが、息子さんから次から次へネタが出てくるんですか?
松井 本当は間に合っていないぐらいネタはあります。長男だけじゃなくて長女も、二人分ありますからね(笑) 編集的な見方をしているとあらゆることが題材になっているのが大きいと思います。これはカット編集だとか、子供のイラストを見ていても思います。
松井 路代 編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
川野 長男くんが大きくなっていって、書きづらさはないですか?
松井 それはあまりないかな。29回で「虫のセンス・オブ・ワンダー」を書くときもそうでしたが、ファクトチェックを長男とやっています。記事を書くことをいい機会として虫の名前などを調べるチャンスにするのもありますし、記事のタイトルから、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』という本があることに気が付いたらしく。その本は虫についての本なん?と聞かれましたね。
編集かあさんvol.29 虫のセンス・オブ・ワンダー
川野 自分が記事になっているのは、くすぐったくないんですか?
松井 内容が間違っているのはよくないんですが、あっていれば長男も大丈夫ですね。
川野 お子さん側からこれを記事にしたらええやん、という企画提案はあるんですか?
松井 近いことはあるかもしれません。そろそろ言われそうですね(笑)
梅澤 書かれる人と書く人が一緒に作るという感じが、混然一体としていていいですよね。感門之盟を松井家のリビングで楽しんでいるという記事が印象的でした。感門っていまや何百人がおうちから参加しているということを、松井さんの記事で教えてもらいました。
余白の感問応答返(編集かあさん家)【77感門】
感門之盟に家族でリビングから参加。(全員を「えこひいき」する生演奏@感門之盟77)
後藤 昨年の感門之盟で私自身が編集長をさせていただいたタブロイド誌を見て、娘さんが自分でメディアをつくってみたことがすごく嬉しかったです。確かかわいいイラストを描いていたと思うんですが(笑)。お子さんとのエディション読みもいいですよね、子供版目次読書の稽古になりそう。松井さんが当初「子供向け編集稽古のお題を100個作りたい」と言われていたことを実践していると思いました。
タブロイド遊び(編集かあさん家)【77感門】
左:感門之盟で制作されたタブロイド誌 /右:編集かあさん家で長女さんが制作したしんぶん
松井 子どもフィールドが始まったのが2021年で、これは大きな「事件!」だったと思います。子どもフィールドらしさを記事に書くことで言語化していきたいということが常にあります。ひとつのことがいろんな相を持っているという視点を大げさに言うと、日本中の人がもってくれたらいいな。例えば、味噌づくりだと食育それだけになってしまうのがもったいない。子どもフィールドでは、味噌づくりは食育だけでなくて謎床でもあるし、手を動かしてプラクシスでもある。そういうことをひとつのモデルとして、記事としてアウトプットしています。
イシス子どもフィールドオープン!
川野 連載の中身や方向性は今後どうなっていくんでしょうか?
松井 連載の方向性は長男が15歳までの記録というか、たぶんそこを超えると違うフェーズに入っていく予想です。子供って最後に残されている悪というんですかね、どこかそういうことを伝えたい気持ちがありますね。最近、子供ってすばらしいと言われすぎていると思うんですよ。本当はそうでもないというか。良いと悪いの未分化のところにあるということが、エディストにしか書けないんだろうなと感じています。川野さんにお声がけいただいて連載をはじめたので、川野さんが生みの親ですけれどもね。
川野 いえいえ、いい連載になってきていますね。
松井 千夜千冊エディションの目次読書は、全部やりたいなと思っています。
編集かあさん家の千夜千冊『全然アート』
川野 大人向けに書かれている本ですが、編集かあさん家では他人事という感覚はなさそうですね。
松井 一般的には、あれは大人の読み物だからという線引きがありますが、うちではその線引きはないです。我が家における“想像力を触発する教育”というんでしょうか。21冊の千夜千冊エディションがずらっと並んでいると、それだけですごいという感覚があります。そういうのにビリビリくるのは小さくてもできるし、その時期の方がいいと思っています。
川野 やっぱりそこって、大人の側が、これはまだあなたには早いねとか、これは何年生になってからねという行為で可能性を整理してしまうことが当たり前になっちゃってると思うんですよ。私は高校の教員ですが、いわゆる学校から離れたホーム・エデュケーションで育っていることの大きな違いがあるかとも思いました。
編集かあさんvol.4 教育新聞を読む
松井 子供には大人的なものをとりあわせたい。大人には子供のものをとりあわせたい。対をとりあわせたいというのがあり、その現場に立ちあいたいと思います。本屋さんから帰ってきたら、本を私一人で見たらもったいない。“ちょっとぉー”と子供たちを呼び集めて、これは何に見える?とかって、問いにしたくなります。
川野 編集かあさん家の最近のホットな話題は?
松井 今は、道元を知ってる?という話をしていますね(笑)輪読座の影響です。それで『情報の歴史21』を開いたりもしています。常に子供って存在自身が“問い”というか。子供の振る舞いが問いだなって、ゆさぶってくるなということをもっと小さい時から感じていました。ゆさぶりは大人に近づくと減ってきますね。分からないことをどんどん言ってくるので大人の側が考えますね。
川野 今後書いてみたいテーマはありますか?
松井 そうですね、子供が間違ったことを言った時にどうしたらいいのだろうか、ということに関心があります。
川野 ああ、重要なテーマだと思いますね。
松井 例えば、子供が危険な思想を持っていたりして、その時に私まで記事に書いてしまうと危険思想が表れてしまうと思うし、そんな危険思想を流布してもいいのかと考えます。輪読座で道元を読んでいるんですが、弟子は師匠を飛び越えないといけないという話があって、道元は自分はいにしえの仏を飛び越えないといけないと。なので、高い壁になるということも私は意識しています。高い壁でいつづけるために、編集力を常にアクティブにしているという面もあります。
川野 放談というよりも、まじめなモードになってきましたが(笑)大事な視点ですね。編集学校の他のかあさんたちはどうですか?
松井 子供と一緒に虫の観察や、虫の名前を調べることを私が丁寧にしている感じがするといわれることがあります。そういう時間を持つのが大事とは思っているが、時間がない、日々の雑事に流されてしまうというコメントをお子さんをお持ちの方から伺ったりします。
でも、本当は“できない”と思われないように書きたいんです。編集かあさんの記事を見て、できそう、やってみたい、気が付いたらやっていた、マネしていた。ということになってくれたらいいなということを考えて、書いています。
吉村 2022年はこんな感じでやろうかというイメージがありますか?
松井 子どもフィールドに参加しながら、まず、親が子供に編集稽古を持ちかけるのは難しいことが分かってきたんです。じゃあ親ではなく、師範代ナビゲーターが子供に編集稽古を手渡すという場が必要だろうという話になっています。それを実現していきたいですね。
そして、この先も、お子さんへの編集稽古に関心がある方々と、もっと井戸端トークをやっていきたいです。松岡校長からは、井戸端でトークしていることがそのままアドバタイズメントになる、とアドバイスをいただきました。それでイドバタイムズというエディスト記事も始まったので、2022年はぜひ継続してやっていきたいです。各地で編集術を子供たちへ手渡す場をつくって、ネットワークしていきたいと思っています。いろんなところで共読会をやってもいい。
そのひとつの場が、名古屋の野村英司さんで、エディストにもっと登場してもらおうかと思っているんです。そういうところに取材に行きたいですね。
松井 子供のことって話しにくいこともあるかもしれませんが、池澤祐子師範が学童保育に関わられながら、軽々超えて関わるというモデルを示していただいたと思っているので、この種を育てていきたいなと思っています。
川野 さらなる2022年の活動を楽しみにしています。
其の肆へ。
※1月4日に「其の肆」を公開いたします。どうぞお楽しみに。
2021新春放談企画「エディスト、装い新たに大ブレイクだ!」
其の壱 – 常時編集状態のイシス(1月1日公開)
其の弐 – マンガのスコア、書籍化間近か?!(1月2日 公開)
其の参 – 全国の子どもたちに編集術を手渡す(1月3日 公開)
其の肆 – 四人四様、新コーナー企画会議(1月4日 公開)
其の伍 – 同時多発・連続・連動で火をつけろ!!! (1月5日 公開)
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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田中優子の酒上夕書斎|第一夕『普賢』石川淳(2025年5月27日)
学長 田中優子が一冊の本をナビゲートするYouTube LIVE番組「酒上夕書斎(さけのうえのゆうしょさい」。書物に囲まれた空間で、毎月月末火曜日の夕方に、大好きなワインを片手に自身の読書遍歴を交えながら語ります。 &n […]
【多読アレゴリアTV】一倉広美の「イチクラ!」着物をアートでコーデする
芽吹きの春から滴りの夏へ。いよいよ熱を帯びてきた多読アレゴリアの旬をお届けします。松岡正剛より「支度天」の名を受けたダンドリ仕掛け人・武田英裕キャスターと共に、守師範の一倉広美がアシスタントをつとめる『多読アレゴリアTV […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。