フェチも極めれば方法へー『雑品屋セイゴオ』流・モノ語り【33[花]敢談儀】

2020/08/01(土)22:00
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『雑品屋セイゴオ』流・フェチ型録

 

当記事は、33[花]敢談儀の「編集語り〜好きなモノを、語る〜」で明かされた花伝生の「7つのフェチ」を取り扱っています。

花伝生は、「私は」と自身を主語におかずフェチなモノを主語に託しつつ、その数寄をzoom上で語り尽しています。

それを『雑品屋セイゴオ』のしつらいに倣い、7つのカテゴリーに再編集した型録”擬”です。

 

具体的には「赤函ー器憶」「橙函ー在料」「黄函ー試想品」「緑函ー潜像品」「青函ー堪能品」「藍函ー観想剤」「紫函ー特贈お誂え」の分類となっており、それぞれに師範や先達のフェチ贔屓コメントを忍ばせています。

 

函ー器憶(きおく)

★ローラーつきの本棚

脚部にローラーをつけて動的な仕様に。
花伝所稽古のあいだ、常に中身や場所を動かして、本棚で思考と空間をマッピングする楽しみがあります。(わかくさ道場 津村さん)

 

その時々で編集を加え続ける点で、「松丸本舗」の本棚もまさにこのような感じ。
千夜千冊の分類を基本としつつ、その時の流行やエディターの気分に応じて少しずつ中身が動く生命的な本棚でした。(小川師範)

 

 

函ー在料(ざいりょう)

★コードレスアイロン

左利きにとって、コードレスは画期的でした。
起源は紀元前2000年から。燃料も明治では炭、大正には電気と推移。
シャツのしわを伸ばす時のアイロンの重みがたまりません。(わかくさ道場 関根さん)

 

うんちく語りが全体の中で突出。明示せずとも関根さんのキャラクターが出てくる不思議。
「どれだけキッチリしたシャツが好きな方なのだろう」と想像が膨らむ語りでしたね。(井ノ上師範)

 

函ー試想品(しそうひん)

★耳かき「匠の技」

毎日、血がでるくらい耳をかくのがたまらない。
リビングや枕元、自家用車や仕事車など至る場所に配置。
色々試した結果、先端の絶妙な厚みが気持ちいい「匠の技」に落ち着きました。(くれない道場 中村さん)

 

トラウマと数寄は紙一重で、数奇が過ぎると病的になるという。
血がでるほどになるとさすがにドキドキしてしまうが、こういう徹底ぶり、花目付好みです。(三津田花目付)

 

函ー潜像品(せんぞうひん)

★野球ボールの「縫い目」

縫い目の数は推移しつつ108になったが、ここ10年間で「変化球」が多様になってきています。
それはピッチャーが縫い目を利用して自分の変化球つくってきたから。
ピッチャーのマイボール編集に楽しみを感じます。(むらさき道場 齊藤さん)

 

縫い目という超部分のフェチを「マイボール」というニューワードまで至る方法語りがすばらしい。
自分のことは一切語らずとも、モノに託すことで齊藤さんの数奇を感じられるのは、方法に根ざした語りだったからこそ。(中村師範)

 

函ー堪能品(たんのうひん)

★トーテムポール

 

「これは何?宗教的なもの?」という小学生の頃の疑問がきっかけです。
調べてみると北西アメリカの先住民にとって家紋や表札であることがわかりました。

家の記憶を柱で「代」として託す方法があったのでは、とそそられます。(くれない道場 内村さん)

 

北アメリカのモチーフから似た情報を取り出すだけでなく、アナロジーをはたらかせ「代」へ。

用法一の方法だけでもここまで語れる発見がありました。(岡本師範)

 

函ー観想剤(かんそうざい)

★ウォークマン

79年のウォークマンの登場はこどもながらすごいなと。
これまで音楽をどう立体的に再現するかという静的なオーディオの世界を破り、ポータブルという新しい動的な視聴体験をもたらしました。(やまぶき道場 畑さん)

 

ビジネスイノベーションフェチな畑さんらしいモノ語り。

赤ののれんをくぐって語り明かせそうですね(佐々木局長)

 

函ー特贈お誂え(とくぞうおあつらえ)

★金沢の加賀手毬

花模様と絹糸のつながり、手にした時のぬくもりが好きです。
金沢では魔除けの意味を込めて花嫁にもたせます。「菊にはじまり菊におわる」十二菊模様には、型を通じた編集美があふれています。(むらさき道場 乗峯さん)

 

触知感覚を想起させる語りが見事。(岩野師範)

アーキタイプにせまる伝統と継承を感じます。(鈴木康代[守]学匠)

 

あふれるフェチたち

最後に、7つの函におさまらなかったフェチをチラ見せします。

 

 

1.赤函ー器憶

 ●琵琶湖

 ●カメラ ニコンD5000

 ●海外旅行

 

2.橙函ー在料

 ●ゲームボーイ

 ●バーミキュラの鍋

 

3.黄函ー試想品

 ●昭和の香りのする画集

 ●ジェットストリームボールペン

 

4.緑函ー潜像品

 ●藤井聡太と大坂なおみ

 ●しんにょう(部首)

 

5.青函ー堪能品

 ●大阪スパイスカレー

 ●サモトラケのニケ

 ●鈴鹿の湧き水

 

6.藍函ー観想剤

 ●マンガ版『風の谷のナウシカ』

 ●ティンカーベル

 

7.紫函ー特贈お誂え

 ●高野山の両界曼荼羅

 ●私自身

 ●テニスコーツ(音楽アーティスト)

 

 

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。