暁斎と江戸編集。最初で最後のEツアー 

2019/12/12(木)20:38
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「わたしはMっ気のある滝の下の鯉です」
「わたしは導きを信じるサムライです」
「わたしは自由きままな野生馬です」
「わたしは鯛を釣り上げようとする悪そうなエビスです」

 

 エディットツアー恒例の自己紹介ワークだが、今回は少しばかり趣向が違った。参加者が「わたし」の見立てに使ったのは、幕末から明治にかけての鬼才、河鍋暁斎の日本画だ。

 


 本楼を埋め尽くした151点の河鍋暁斎の真筆は、江戸絵画コレクター・加納節雄氏所蔵の作品。加納氏は写真家の十文字美信氏とともに、江戸絵画と現代写真を接合する作品様式をつくっている。その芸術実験に驚いた松岡校長がライプニッツに肖って「アルス・コンビナトリア」と名づけた。


 12月4日には、暁斎と本楼が出合うアルス・コンビナトリアPROJECT特別企画「興」が実現。そのためにしつらえられた場で翌日のエディットツアーを開催するという、降って湧いた驚愕の与件を衣笠純子師範代[13離]が引き受けた。

 

 ツアーのテーマは「江戸の編集」。江戸開府と時を同じくして、大陸では明が崩壊し、「中国」というグローバルスタンダードの国家モデルを失った。文化、芸術、学問、経済、あらゆる分野で独自モデルの模索が始まったのが江戸である。「日本という方法」の本来が外来コードを内在モードへ編集するところにあるが、江戸はそれを徹底した。幕末の天保から近代化に向かう明治に活躍した暁斎は、江戸という編集の時代を、画の中で再編集し、再現してみせたと言えるだろう。

 

 メインの編集ワークは「一枚の暁斎+一冊の本」をインタースコアしてタイトルをつけるネーミング編集。江戸と暁斎のように、画という情報をさらに再編集しようというわけだ。

 

 参加者は幾層ものレイヤー状に吊り下げられた作品の森の中を歩き回る。そのわずかな動きにも掛け軸が揺れる。画との距離は、限りなくゼロ。江戸の息吹を身体に感じる距離感で多様な情報を取り出していく。


 衣笠師範代の方法の示唆によって、参加者は絵画の鑑賞ではなく、暁斎と自分自身のアルス・コンビナトリアを即席でやってのけた。

 江戸研究家でもある田中優子法政大学総長は自身もイシス編集学校の守破離を修了。その体験を「インターネット上の先端的寺子屋教育」と評している(『日本問答』(岩波新書)あとがきより)。8人の参加者は暁斎と交わり、現代の編集寺子屋を体験堪能した。

  • 田中むつみ

    編集的先達:赤瀬川原平。アニメの声優、CMフォトの副編集長、女子大生にメディア情報学を教授していた経歴の持主。頷きの速さが通常の4倍速。野望は中高年のセカンドライフを再編集すること。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。