この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「人間は悲しい。率直にいえば、それだけでつきる。」と長谷川時雨はいう。だとしたら、悲しさの断片から何かを発現させたっていいじゃないかという気持ちにもなろう。そんな気持ちに寄り添うかのように今期47[破]よりセイゴオ知文術の課題本に加わったのは『フラジャイル』(松岡正剛/ちくま学芸文庫)であった。何かの符号があってか「册影帖(satsueijo)」の第一弾も『フラジャイル』が飾った。今の時代が求める一冊なのかもしれない。
「册影帖」はセイゴオちゃんねるで公開されているスペシャルコンテンツで、川本聖哉さんの動画と写真で本の世界観を読むプロジェクトである。『フラジャイル』の愛読者も、未読者も、ご覧になられたい。朗読は松岡正剛本人が行う。
◇
「册影帖・フラジャイル」の撮影は、テストも含めて何度も行われた。なかで、豪徳寺・ISIS館で行われた「ある日」の制作の裏舞台を10shotでお届けします。
『フラジャイル』撮影
撮影セットは川本さんが持参。あっという間に本楼が撮影スタジオになる。
照明を落とすと自然とこちらの集中も高まる。スチールと動画の撮影を交互に行う。こちらはスチール撮影の様子。
割れた鏡の反射光が本の顔を輝かせる。光を当てるとfragileの細い文字が仄かに発光する。
“伝家の宝刀”懐中電灯をいくつも並べて光を微調整する。懐中電灯にビニールをかぶせると柔らかい光になる。
乳白色の板の上にはプラ板加工したフラジャイルな言葉を不揃いに配置する。息を吐くだけで吹き飛んでしまいそうな断片。思わず息を潜める。
本のページをめくるのは総匠 太田香保。川本さんは脚立にまたがり撮影する。体幹が良くないとこの脚立撮影には耐えられない。
日が暮れ始める頃合いを見て、屋上に移動。寒空の下でレフ板を握りしめる寺平賢司(中央)と太田(左)。奥には制作風景を動画記録する林朝恵。
ふらりと本楼スタジオに訪れた松岡正剛。「フォトジェニックなんだけどそこに裏切りや遊びがあったほうがいい」とアドバイスを置いていく。『情報と文化』(松岡正剛+戸田ツトム構成/エヌ・ティ・ティ・アド)を引っ張り出して本に散りばめた遊びのフラグメントを見る。
松岡正剛による朗読収録
出来上がった動画を見ながら、イメージを交わし合い朗読の打ち合わせ。
本書から選び抜かれたフレーズを机に並べて収録前に調子を整える。
当初は別の仮タイトルがあったが、作品について話し合いを重ねながらプロジェクトの輪郭を立ち上げ正式名が命名される。「ノートのような感じがした」と《所》ではなく《帖》の一字があてられる。「本から出てくるものを声や音、フォント、映像にするのはこれが初めてじゃないかな」
「蝶をつかまえる。鱗粉をこぼさないようにそっと手を窄める」続きは動画でご堪能を。
FRAGILEジャケット撮影
再び本楼スタジオ。宙に揺れる山本耀司さんのFRAGILEジャケットを撮影。
赤いライティングがフラジリティの過激さを演出する。この映像はエンドロールで登場する。
つい先日初公開となった「册影帖」だが、実はすでに第2弾の制作が始まっている。次はどの本が動画作品となるのか。きっと意外な一冊だろうと思う。
資料協力:林朝恵
◇関連リンク
セイゴオちゃんねる「册影帖」
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NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。