この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

人気大沸騰中のISIS FESTAスペシャル「『情歴21』を読む」シリーズ。その第三弾のゲストが決定しました。
第一弾は『情歴』のヘビーユーザーを自称する文筆家兼ゲーム作家の山本貴光さんがフランスの文豪バルザックと格闘し、第二弾は社会学者の大澤真幸さんが中世の東西教会分裂から現代のウクライナ問題までを一気通貫する白熱講義を披露しました。そして、第三弾のゲストはついにこの方の登場です。江戸文化研究家の田中優子さんです。
山本貴光さんが『情歴』ヘビーユーザーなら、田中優子さんはイシス編集学校のヘビーユーザーです。基本コースの守、破、離、そして多読ジムや物語講座などほぼすべてのコースウェアをモーラし、編集学校内で「優子先生」の名前で親しまれています。法政大学総長の時代には「遊刊エディスト」のインタビューにも登場しました。
旧知の仲である松岡正剛校長は、千夜千冊0721夜『江戸の想像力』の中で田中優子さんの“19のぶっちぎり”を次のようにあらわしています。
①田中優子は山東京伝が熱燗でわかっている。
②次に『江戸の想像力』の序でスーザン・ソンタグのキャンプ・ノートを引いて、人工美意識過剰の18世紀の幕開けの枕としてその由来を援用したところが、二番に粋だった(第695夜参照)。
③三番、中野美代子にモテて、金沢の夜に上野千鶴子と花魁の妍を競い、女たちには度胸があると思われているのに、本人は伝法な愛嬌ばかりを気にしてきたというのが、いい。
④それから四番、歴史や現実の「全体」の病気に目を奪われず、たえず「異質」や「外部」や「部分」や「相対的なるもの」に注意のカーソルを動かしつづけているところ、それをサブジェクトなどという忌まわしいものなんぞで括らず、そこに及んだメソッドの意味を問いつつ切り刻んでいくところが、好きだ。
⑤五番目には、研究であれ仕事であれ付き合いであれ、準備と戦闘開始と後の祭りとがいちいち問われているのが、おもしろい。
⑥六番目、本書の題名ではないが、やっぱり想像力がいい。その想像力を繰り出す拠点が絞れていて、それでいて大きい。そこが評価されてよい。
⑦七番目に言いたいことは、田中優子は文体はコクがあるのにキレがある(笑)。
⑧ともかくも八番目、彼女はなにより「文の音の人」(あやのねのひと)であるだろう。
⑨九番に、まず廣末保がお師匠さんにいた。この人は「悪場所」や「悪所」を研究した人で、江戸社会の闇の文化(遊郭や芝居など)の専門家だった。
⑩そこで十番、これは邪推だが、そもそも田中優子は自分が影響をうけた相手に「きそひ・あはせ・そろひ」を挑みたいという、生まれながらの宿命的性癖の持ち主なのではないかと思われる。
⑪だからこそ、十一番、田中優子のコンセプトのひとつは「連」なのだ。
⑫十二番、しかしながら田中優子の身体感覚はリテラルというよりもヴィジュアルを得意とする。彼女にとってリテラルは技能、ヴィジュアルは官能なのだ。
⑬十三番、田中優子は枕絵がめっぽう好きな人である。きっと少女期に何かがあったのだろう。
⑭それゆえ十四番、「俗」が了解できない「聖」を嫌い、「聖」を許容できない「俗」にはいない。だから孤独な群衆の中などにはいずに、群衆の孤独の中にいる。
⑮しかし十五番、オヤジやオジンにモテまくっていて困っている。彼女は静かな暮らしがしたいのだ(と、言っている。モテなきゃこんなことも言わないかもしれないが)。
⑯十六番、編集工学研究所に事務を預けたのとはうらはらに、彼女には実はたいそうな事務能力がある。交渉能力も管理能力もある。
⑰十七番、繊細な度胸があって、臆病な勇気がある。だから過剰な江戸社会に咲いた“超部分”に振り向ける。
⑱そして十八番、これがふつうに田中優子の特色をあらわしてきたことだろうが、メディアの側から世界を考えることができる人である。世界をメディエーションの変化として捉える人なのだ。話してみてわかったのだが、彼女はそれを横浜の花街の中で少女時代に身につけた。
⑲最後に十九番、そういう少女のころのことを、小説なんぞに書いてもらいたい。
さて、田中さんと松岡校長には『日本問答』『江戸問答』(ともに岩波新書)という「問答シリーズ」があります。「第三弾 田中優子篇」では、その『日本問答』と『江戸問答』を『情歴21』と重ね、世界を横目に日本の近世と近代を対比ながら展開していきます。日本の伝統とは何か、日本が失ったものは何なのか。おそらく、かつてない「世界と日本の見方」が浮かび上がってくることでしょう。松岡校長が20番目の”田中優子さんのぶっちぎり”を発見する日もこの日かもしれません。
「ISIS FESTA SP『情報の歴史21』を読む」は、古代から中世、近世、近代そして2020年まで古今東西様々なジャンルを見開きで一望できる『情歴21』という一大クロニクルに、どんな可能性があるのか、どのように使い倒すことができるのかをめぐって、さまざまなゲストが自らの方法を開陳するスペシャルイベントです。
「第一弾 山本貴光篇」「第二弾 大澤真幸篇」「第三弾 田中優子篇」に続いて、第四弾、第五段とシリーズ企画として毎月一回ほどのペースで続いていきます。さらに『情歴21』編集長の吉村林頭によると、書籍化の目論見もあるそうです。まだまだ見逃せない情歴プロジェクト、今後の展開もどうぞお楽しみに!
ISIS FESTA SP『情報の歴史21』を読む 第三弾 田中優子篇
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2022年4月10日(日) 14:00~16:30
■会場:
リアル参加:本楼(世田谷区豪徳寺)
オンライン参加:お申し込みの方にZOOM アクセスをお送りします。
■参加費 :
リアル参加:¥ 3,850 税込
オンライン参加:¥ 2,200 税込
■参加資格:どなたでもご参加いただけます。
■お申込み:以下よりお手続きください。
https://shop.eel.co.jp/products/detail/385
*プルダウンでリアル/オンラインをお選びください。
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金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
「脱編集」という方法 宇川直宏”番神”【ISIS co-missionハイライト】
2025年3月20日、ISIS co-missionミーティングが開催された。ISIS co-mission(2024年4月設立)はイシス編集学校のアドバイザリーボードであり、メンバーは田中優子学長(法政大学名誉教授、江 […]
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佐藤優,登壇決定!!!! 7/6公開講座◆イシス編集学校[守]特別講義
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。