この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

スニーカーならエアマックス。NBAはエアジョーダン。ダイノジはエアギター。そしてイシスにはエアサックスと呼ばれる男がいる。
感門之盟で音楽を学ぶ卒門学衆としてフィーチャーされたものの、サックスの演奏が未熟だったため、校長から吹かないで持ってるだけにしてとディレクションされたことから、「エアサックス」の愛称がついた。49[破]学衆・ヤマネコでいく教室、加藤陽康。これは3度目の正直ならぬ3度目の突破にかける若者の4ヶ月に渡る編集稽古のドキュメントである。
きた! みた! だした!
祝! 初エントリー、エアサックス加藤!
エアサックスが歴史を刻んだ。ただし自分史に。これまでの2期連続で締め切りまでに書き切ることさえできなかった男が初めて、知文アリストテレス賞にエントリーを成し遂げた。
当たり前のことがとにかくめでたく感じられるエアサックス。喜びを与えてくれる男である。めでたいことではあるが、手放しに喜んでばかりはいられない。
はい、反省かーい、反省会ー。エアサックスを囲んで、オネスティー上杉と編集天狗が集い、今回の知文を振り返る。加藤の口から出るのは残念と悔恨の弁である。「最終的にはエントリーはできたけど、それ以上ではありませんでした。本の紹介というところにいけなかったです。本の紹介というターゲットを忘れたときがありました。陸上とか水泳みたいにキツくてもフォームを崩さないように、型を考え続けたいとイメージしていたんですたが、近づけば近づくほど結局フラジャイルって何だろうということに行きついて、その複雑さに耐えられなかったです」。くどくどした言葉ではあるが、自己をふり返ることができた加藤。しかし、天狗はそう簡単にこの男を信用はしない。
型ね、ではどんな型が足りなかったのか。言ってみなさい。「最初に思ったのは、分類軸の型が足りなかった。エディット的な柔らかい分類をしたかったのに、フラジャイルをコンパイルで考えすぎていた」。それから? 「ウメ子さんの記事やヒョーショーチャンネルは参考にしていたんですが、7メートルに差し掛かれなかった。BPTのターゲット、仕上げのイメージが足りなかった」。それから? 「それだけです」。。
前回の記事見てないのかな? 天狗からは、あらためてフラジャイルを腑分けしたら、それの例示をあげ、略図的に捉え直すこと、略図的原型の重要性が説かれた。一方、エントリーを加藤が達成したことで目を潤ませるオネスティーは、自分の経験を振り返る。「大事だと自分で思っていたことが、師範代から指南を受けると大したことないということがわかるときがあったんだよね。自分もうまくいかなかったけども、加藤くんも、もう1パターンくらい書いてみるという余裕があるとよかったかもしれないね」。優しい兄貴は自分を下げながら、エアサックスを励ました。
さあ、次はクロニクルだ。自分史と本の歴象を重ねて、3つの軸で新たな年表を編集する。その前にまずは『情報の歴史21』を開いて、自分が生まれた年の特徴を取り出すお題がある。エアサックス加藤は1999年生まれ。アリババ・アイボ・アルモドバル。ゴーン・モー娘・iモード。さて、加藤は編集64技法を使って、どんな一年と捉えるか。
編集天狗はクロニクルの先の大きな野望を見据えていた。最後のアリスとテレス賞である物語編集術だ。
ところで、加藤くんは物語を書いたことがあるの?
「えっと、書いてないと思います」。(思いますって、自分のことなのにどういうことだ。それくらい忘却しているらしい。)
どんな物語を書こうと思ったの?
「1回目はコンビニの雨どいと蛇が似ているという話を書こうと思いました。2回目は縄文のことを書こうと思って、地形をしらべていました。全然面白くなかったです」。(そうだろう。聞いているだけで面白くないことがわかる。)
じゃあね、どんな物語を書くか適当に決めてみようか。情報の歴史があるから、ぱっと開いて、指でさしてそこにある歴象で書くことにしてみよう。エアサックス加藤は言われるがままに、『情報の歴史21』を開き、指を落とした。古今東西指さしの旅、運命は決まった。
1つ目の関門、知文術のエントリーは成し遂げた。次なるクロニクルの山をエアサックス加藤は登頂できるのか。はたまた、自己憐憫におぼれて自分史を編集できずに終わるのか。そして、物語エントリーは? 突破を目指す珍道中、次回はエアサックス自分史篇にご期待ください。
【エアサックス加藤の三度目の突破】バックナンバー
■【エアサックス加藤の三度目の突破05】歴史的快挙そして新たなる野望(本記事)
■【エアサックス加藤の三度目の突破04】守の型を使い尽くすべし
■【エアサックス加藤の三度目の突破03】心がわりの相手は君に決めた!
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。