冬将軍に防戦した師範代-山本辰之の記録

2019/12/21(土)13:28
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  •  「もう、それほど私の残されている時間はありません。次の世代に何を手渡せれるのか?それは、編集学校の『方法』である。それしか無いだろうと確信しています」。
     42[守]児雷也教室師範代・山本辰之が決意を表明した。山本は富山県高岡市で学習塾を主催している。教育への熱情と、知的探求心に駆り立てられての、師範代デビューであった。時は2018年10月末。冬の気配が漂う季節だった。
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  •  同時期、山本はチームラウンジでつぶやく。「窓の雪囲いがやっと終わった・・」。そこは師範代と師範が、指南や教室編集について交しあいをする場だ。多少の雑談もすることはあるが、山本は切々と訴えるものがある。「除雪機、真剣に購入しないと思ってる日々です」。山本は、70年近くの生涯の大部分を富山で過ごしてきた。雪の怖さは、身にしみている。

     12月になり、教室で山本は学衆を編集稽古へと誘う。
     「二十四節季の大雪(たいせつ)がもうすぐそこのようです。寒い時には編集稽古で温まりましょうか」。

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  •  他方、チームラウンジでは恐怖心があらわになっていく。「降雪の状況などもあり不安は隠せません」「いよいよ冬将軍が到来しそうです」。
     そう言われても、チームメンバーの師範と師範代には、なにもできない。

     

  •  山本の教室は、7名の卒門者を輩出した。19年3月18日、山本は「あらたな息吹とともに、うららかな陽射しの中に出かけていきましょう」と学衆に最後のエールを送り、師範代ロールをまっとうした。同日、チームラウンジもクローズする。その日は、富山県の公立高校の合格発表日。学衆塾を主催する山本にとって、大きなけじめの日となった。受験生のお世話と、師範代ロールと、冬の恐怖から解放された山本。心中は、晴れやかだった。山本は「燦燦と編集を!」という言葉を残し、チームラウンジを後にした。

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  •  この冬、積雪量は10cmほどであった。けっきょく、山本は購入した除雪機を使わなかった。       
         

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。