この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

エピクロスさん(40代女性)のご相談:
「寝食を忘れて」もよいのはいつからでしょう?留学中の息子が低血圧と選好みで寮の食事をきちんととらないらしく、結果学業にも支障が出ているのではと英国人の寮父から言われました。とはいえ、無理に不味いものをガツガツ食え!とも言いずらい胃袋の共感や教育的思想も複雑に相まっており、解はないかもしれません。一方でその不足へのビジネス的アプローチを考える投資家目線の自身もおり、介入との放置という子育てにつきまとう微妙なバランスをコロナ禍で模索しています。なにかよきアドバイスを!
サッショー・ミヤコがお応えします
えーっと、まず一般論として「寝食を忘れる」のは大人の専売特許ではありません。食事を忘れてかくれんぼや缶けり遊びにふけったり、布団の中にスタンドを持ち込んで親に禁止されたマンガや小説を朝まで読むなんて、小学生でも中学生でも日常的なことだというのを思い出しましょう。
息子さんが「食事をきちんととらない」のがお悩みのタネですね。「低血圧と選り好み」が原因というのはお母様の分析でしょうか。寮父から「学業にも支障が出ているのでは」と報告があった点、因果関係を1:1で捉えようとするアングロサクソン気質を感じてしまいました。一方で、「介入と放置」のバランスに悩みつつ「その不足へのビジネス的アプローチ」を頭に浮かべているエピクロスさんは、健全でたくましい日本の母!
千悩千冊0007夜
笙野頼子
『母の発達』河出書房新社
笙野頼子さんは、何を隠そう、サッショーが最も敬愛してきた作家の一人です。スクナヒコナがジャニーズ系であること、森茉莉は死後「森娘」という名の妖怪に変じて『贅沢貧乏』という一冊の本の中に住まいつづけていることなど、みんな彼女に教わりました。
この『母の発達』、一九九六年の新刊当初には斎藤美奈子さんから〈長年の糞づまりがいっきに解消するようなサイコーの浣腸小節〉という評価をもらっています。その斎藤さんが文庫の解説も担当されました。殺しても死なない母に悩む人、母である自分の立ち位置に迷う人、母から生まれてきたすべての存在に贈りたい一冊です。何しろ「あ」のお母さんから「ん」のお母さんまで、あらゆるお母さんのプロトタイプが満載。どれもこれも読んでほしいので、短い部分を引用しますね。
「ち」の母は小さい母やった。原子核よりも小さかった。危険やった。
母は世界一危険なフラジャイル
◉井ノ上シーザー DUST EYE
自分を引き合いにいたしますが、わたしは幼少のころ、かっぱえびせんとカルピスしか食さない痩せぎすの子供でした。箸を使ってモノを食べることがめんどくさかったからです。母親は母親で「カルシウムが取れているので、いいのではないか」と放置していました。小学校高学年に至り、「うまいもの」の味を覚えました。それからというもの「おれの前世は餓鬼だったのか」と思うぐらいの執着心を食に持っています。
エピクロスさんの息子さんも、どこかの時点で大飯食らいへと転換する可能性は大いにあります。むしろ、今の食が細いほど、どん欲になる可能性があります。
作家の坂口安吾は「親がなくとも子は育つ、ではない。親があっても子は育つ、なんだ」と述べました。
安吾の考え方に則ると、子育ては最高の長期投資にはなりませんでしょうか。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
【シーザー★有象無象006】自分にかける呪い考~アル中患者のプライドと、背中の龍と虎の戦いと、石田ゆり子の名言と。
前回の経済学の記事で「金融緩和をするほどに(IF・原因)高インフレが生じる(THEN・結果)」という現象を取り上げた。望んでいるのはマイルドなインフレなんだけど、よかれと起こしたアクションで期待しない結果をもたらす。これ […]
【ISIS BOOK REVIEW】ノーベル経済学賞『リフレが正しい。FRB議長ベン・バーナンキの言葉』書評~会社員兼投資家の場合
評者: 井ノ上シーザー 会社員兼投資家 イシス編集学校 師範 文明も芸術も、経済も文化も、知識も学習も「あらわれている」を「あらわす」に変えてきた。この「あらわれている」と「あらわす」のあいだには、かなりの […]
【シーザー★有象無象005】”町中華”を編集工学する~ユーラシア編
ちょっと裏話を。前回の「市井編」と今回の「ユーラシア編」は、もともとは一編でしたけど、遊刊エディスト編集部から「分割したほうがいいんじゃない?」という声があって分けてみました。今回もホリエ画伯がトホホ感あふれるアイキャッ […]
【シーザー★有象無象004】”町中華”を編集工学する~市井編
中国在住歴通算11年(!)の井ノ上シーザーがこのネタに取り組みました。大真面目にDUSTYな編集中華料理をお届けします。たーんとご賞味ください。 ●――深夜に天津飯がやってきた: ある夜中の2時ころに目を覚 […]
【シーザー★有象無象003】事件速報◆山口県阿武町から越境した男と4630万円
井ノ上シーザーが「い・じ・り・み・よ」する。今回は世間を騒がせているこの事件を取り上げる。 文学的でもあるし、超現代的でもある。そう睨んだのはシーザーだけではないだろう。 ●――電子計算機使用詐欺事件: 2 […]
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。