千悩千冊0007夜★「留学中の息子が食事をきちんととりません」 40代女性より

2020/12/23(水)11:14
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エピクロスさん(40代女性)のご相談:

「寝食を忘れて」もよいのはいつからでしょう?留学中の息子が低血圧と選好みで寮の食事をきちんととらないらしく、結果学業にも支障が出ているのではと英国人の寮父から言われました。とはいえ、無理に不味いものをガツガツ食え!とも言いずらい胃袋の共感や教育的思想も複雑に相まっており、解はないかもしれません。一方でその不足へのビジネス的アプローチを考える投資家目線の自身もおり、介入との放置という子育てにつきまとう微妙なバランスをコロナ禍で模索しています。なにかよきアドバイスを!

 

サッショー・ミヤコがお応えします

 

えーっと、まず一般論として「寝食を忘れる」のは大人の専売特許ではありません。食事を忘れてかくれんぼや缶けり遊びにふけったり、布団の中にスタンドを持ち込んで親に禁止されたマンガや小説を朝まで読むなんて、小学生でも中学生でも日常的なことだというのを思い出しましょう。

息子さんが「食事をきちんととらない」のがお悩みのタネですね。「低血圧と選り好み」が原因というのはお母様の分析でしょうか。寮父から「学業にも支障が出ているのでは」と報告があった点、因果関係を1:1で捉えようとするアングロサクソン気質を感じてしまいました。一方で、「介入と放置」のバランスに悩みつつ「その不足へのビジネス的アプローチ」を頭に浮かべているエピクロスさんは、健全でたくましい日本の母!

 

千悩千冊0007夜

笙野頼子

『母の発達』河出書房新社

 

 

笙野頼子さんは、何を隠そう、サッショーが最も敬愛してきた作家の一人です。スクナヒコナがジャニーズ系であること、森茉莉は死後「森娘」という名の妖怪に変じて『贅沢貧乏』という一冊の本の中に住まいつづけていることなど、みんな彼女に教わりました。

この『母の発達』、一九九六年の新刊当初には斎藤美奈子さんから〈長年の糞づまりがいっきに解消するようなサイコーの浣腸小節〉という評価をもらっています。その斎藤さんが文庫の解説も担当されました。殺しても死なない母に悩む人、母である自分の立ち位置に迷う人、母から生まれてきたすべての存在に贈りたい一冊です。何しろ「あ」のお母さんから「ん」のお母さんまで、あらゆるお母さんのプロトタイプが満載。どれもこれも読んでほしいので、短い部分を引用しますね。

 

「ち」の母は小さい母やった。原子核よりも小さかった。危険やった。

 

母は世界一危険なフラジャイル

 

◉井ノ上シーザー DUST EYE


自分を引き合いにいたしますが、わたしは幼少のころ、かっぱえびせんとカルピスしか食さない痩せぎすの子供でした。箸を使ってモノを食べることがめんどくさかったからです。母親は母親で「カルシウムが取れているので、いいのではないか」と放置していました。小学校高学年に至り、「うまいもの」の味を覚えました。それからというもの「おれの前世は餓鬼だったのか」と思うぐらいの執着心を食に持っています。

エピクロスさんの息子さんも、どこかの時点で大飯食らいへと転換する可能性は大いにあります。むしろ、今の食が細いほど、どん欲になる可能性があります。

 

作家の坂口安吾は「親がなくとも子は育つ、ではない。親があっても子は育つ、なんだ」と述べました。

安吾の考え方に則ると、子育ては最高の長期投資にはなりませんでしょうか。

 

「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。

 

  • 井ノ上シーザー

    編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。