この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

ミウさん(30代女性・無職)のご相談:
結婚4年目の夫が、とにかく家に物を溜め込みます。
読んでいる気配のない本、演奏しているのを一度も見たことがないキーボード等はまだ「わかる」のですが、加えて金剛杖、南部鉄器のハンドベル、張り子のふくろう、大量のヒーリングCD、チベット体操のDVDなどいつ何に使うのか全くもって不明のものたちが家のあちこちに置かれています。
最近子どもが生まれ、深刻に家が狭く感じるようになったので「物を減らして部屋を片付けて欲しい」と度々訴えているのですが、その度右の物を左に、左の物を右に動かすばかりで全くエントロピーの総量が変わっていません。
どうしたら夫に我が家の空間が有限であることを理解してもらうか、私が用途不明品で生活空間を圧迫された暮らしを許容できるようになるでしょうか。
サッショー・ミヤコがお応えします
金剛杖、南部鉄器のハンドベル、張り子のふくろう、大量のヒーリングCD、チベット体操のDVDなど具体的な「何に使うか全くもって不明の」モノの名前を聞かされると、おいおい、部屋の心配の前にする心配があるやろう、とツッコミたくなります。物体としてはどれもそれほど「場所をとる」モノではありませんが、それを見たミウさん(や、たまさか部屋を訪れたママ友など)の心理的負担たるや、部屋の背景はヘビナワと「ドヨ~~ン」に支配され、座る場所さえなくなるよね、とイメージいたしました。お勧めしたいのは、画家・猪熊弦一郎が集めた「物」をスタイリスト・岡尾美代子が選んで、写真家・ホンマタカシが撮影した、この一冊『物物』(BOOK PEAK)です。巻末には「如何なる眉の下に」と題した堀江敏幸のエッセイも入っています。
千悩千冊0002夜
猪熊弦一郎(著)、 ホンマタカシ (著)、 岡尾美代子 (著)、 堀江敏幸 (著)、 菊地敦己 (編集)
『物物』BOOK PEAK
鉛管のオブジェ竹薮から偶然拾ってきた鉛管。
夜中にこの鉛管を色々に折り曲げていると、思いがけない美しい線を発見するという。
このまなざしで、彼は張り子の娘の、心のむなしさよりも強さの方を捉えていたのだろう。
子供が成長するにつれ、夫は子供になりたくなるのかもしれないですね。ま、10年までは新婚のうちなので、互いに色々まさぐってみてください。モノ集めより写真集の出版を勧めるのも手、かもね。
事理無碍法界<事々無碍法界。
サッショーみやこ、読まな、許しまへんで。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
エントロピーとは“混沌と化していく”ことですが、ミウさんは大きな勘違いをしている可能性があります。
ミウさんから「いつ何に使うのか不明」と目されているモノ群は、旦那さんからすると構想している大きなプロジェクトの要素なのかもしれません。
雑多なものたちは、超越的な存在と交信するための曼荼羅である可能性も否定できません。
そうであれば、「モノを減らしてほしい」というミウさんの言葉こそが、旦那さんにとってはエントロピーを増大させるノイズなのです。
ミウさんには、深い反省をもってご主人に陳謝をしていただきたいと思います。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。