【参丞EEL便#016】黒板派が、本棚を新たなメディアにする

2022/08/10(水)19:59
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松岡校長は”黒板派”だ。
子供のころ、先生がチョークの粉をツツツーと滑らせ、漆黒から自在に文字や図を浮かび上がらせていくのを見て、うっとりしていたという。連塾やAIDAや伝習座の講義では、2〜3枚の黒板に次々に動かし、裏表を返して行ったり来たりして、黒板をとびきりのトーキングメディアとして話をされてきた。黒板派の大先達は、校長も影響を受けたという、神智と人智をむすぶ数々の黒板絵を遺したルドルフ・シュタイナーだ。

 

近畿大学でも、学生図書館サポーターが、黒板派になる。

 

近畿大学ビブリオシアターは、1階NOAH33と2階DONDENの合計65の書棚で構成され、大中小の黒板が備え付けられている。黒板にどのような世界を出現させるかは自由だが、基本ルールを設定している。①各棚から1冊の本を選ぶ、②1冊の本を紹介するためのメッセージを編集してイメージと共にチョークで描く、③DONDENの黒板は漫画のコマを模写してみよう、④シュタイナーや松岡校長のように、誰もが真っ黒い宇宙の中に生み落とされた子供であり、当初の記憶と歴史的現在に立ち、無地の黒から世界を出現させる黒板派であれ、というものだ。

 

本を読み、メッセージを編集し、本棚黒板というメディアで世界を現すプロセスでは、もちろん編集術を駆使してもらう。黒板派は、同時に編集族でもある。本の要素・機能・属性を取りだし、キーワード・ホットワード・ニューワードとキーセンテンスを引きだし、いじりみよで見方を差しだす。

 

人の表情を描くのが得意だったり、文字デザインがうまかったり、ミメロギア型メッセージの編集に苦戦したり。学生の黒板編集プロセスは、すこぶる個人差が出て面白い。それぞれの方法や向き不向きや意外なこだわりも見えてくる。

 

ぜひ、ビブリオシアターを訪れたら、黒板にも注目してほしい。

 

 

[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]

//つづく//

 

  • 橋本英人

    函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。