【参丞EEL便#004】敦賀の街に、本と世界を届けよう

2022/05/11(水)08:09
img CASTedit

書店ほど人間が弱みを見せるところは少ないーヘンリー・ビーチャー(牧師)

 

福井県敦賀市に、新たな交流と賑わいの創出の場ができる。

2024年春の北陸新幹線敦賀開業に向けて、敦賀駅前に「otta(TSURUGA POLT SQUARE)」が今年9月にオープン予定である。ottaは、公園・広場、ホテル、飲食物販テナント、子育て支援施設、知育・啓発施設などが整備され、各施設がキャノピー(移動用の乗りもの)でつながれた回遊コミュニティとなる。

かつてから、敦賀は、邂逅と開交の港であった。
記紀万葉の頃より北陸道総鎮守・氣比神社が鎮座し、中世では日宋貿易の拠点であり、1940年代には杉原千畝の導きで「命のビザ」を携えたユダヤ難民が上陸した日本唯一の港である。

EELは、丸善雄松堂と共同企業体として指定管理者となり、オープンに向けてottaの「知育・啓発施設」部分の選書プロデュースを行なっている。「本とともに⼈が成⻑していく」の施設コンセプトと「世界樹 World Tree」の空間コンセプトのもと、アイキャッチ画像にあるような2階建ての空間で、1階は知の体系を浴び、2階は本に触れ、本を介して遊ぶ場になる。

約3万冊の書籍が入るが、特に絵本が充実している。定番から全国的にも入手が難しい本まで手に取っていただける(選書チーム談)。2階ではBOOKWAREディレクターの小森が推薦した(株)Cast-Japanと連携し、シンプルかつ奥深いルル3条で3歳から99歳まで楽しめるGIGAMIC社のボードゲームなど、世界中の玩具も購入可能になる(予定である)。本を通じて世界がひろがる「知」の拠点の準備が進んでいる。

知育・啓発施設の名称は「TSURUGA BOOKS & COMMONS ちえなみき」となった。
本との出会いから生まれる「知恵(ちえ)」、木の枝のような本棚を表現した「千枝(ちえ)」「並木(なみき)」「幹(みき)」、敦賀の港を想起させる自然のイメージを表現した「波(なみ)」「千重波(ちえなみ)」。これらの意味と施設空間コンセプトを複層的に組み合わせたロゴデザインを制作した。名称は一般公募から選ばれた。佐々木局長が敦賀市の小学生とおこなったネーミング編集ワークショップの動画を参考にして、一般の方から広く応募があった(詳細はこちら)。



「ちえなみき」のオープニングイベントは9月に開催予定である。敦賀は大谷吉継が敦賀城主をつとめ、天狗党(水戸藩尊王攘夷派)の乱の終焉地であり、地元から大和田銀行がうまれ(大和田獏の家系である)、毎年9月2〜15日は氣比神社の例大祭が執り行われる。敦賀の多様なルーツがどのように編集された”開冊祭”になるか期待されたい。そこには日本最大級のまゆ型ネット玩具スーパーコクーンも登場する?

 

読者こそが、いちばん平凡で、いちばん残酷で、いちばん自由なのであるー松岡正剛

 

 

[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]

//つづく//

  • 橋本英人

    函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。

  • 【参丞EEL便#036】AIDAシーズン3、閉幕へ

    かつて校長は、「”始末”とは、終わりのことですが、エンディングとビギニングは一緒だということ。歌舞伎役者が最後に舞いたい踊りは、自分を目覚めさせる踊りかもしれないわけで、終わりのメッセージとは、何か始まりを感じさせるもの […]

  • 【参丞EEL便#035】地域にこそ、編集力と対話の場を

    「日本流(経営)の本質は、異質なものを編集する力だったはずだ。ーーー異質なデータを価値ある情報に編集する知恵がこれからの勝負となる。それをセマンティックプラットフォーマーと呼んでいる。」   一橋大学ビジネスス […]

  • 【参丞EEL便#034】 職場から「おしゃべり」が失われている?

    ブライアン・イーノは、1996年に「scenius(シーニアス)」という言葉をつくった。「scene + genius」。文化的および知的進歩の多くは、あるシーン(やリアルな場所)から、一種の集合的魔法をおこした多数の人 […]

  • 【参丞EEL便#033】「ちえなみき」で触れる7つの文字の世界

    ひとつ、「雲」という字は元々は「云」と書き、これは雲気たなびく下に、竜のくるっと巻いたしっぽが見えている形である。大昔、人々は雲の中に「竜」がいると考えていた。 来場者10万人を突破した福井県敦賀市「ちえなみき」で、「一 […]

  • 【参丞EEL便#032】一年を、むすんでひらく「本どこ屋」

    赤坂から、赤堤へ。 2012年12月、EELは6万冊の本と一緒に、赤坂から赤堤(最寄りが豪徳寺駅)へと引っ越しをした。知の移転を行った。   そこからちょうど10年、校長への献本や千夜本や、EELプロジェクト関 […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。