師範代・阿部幸織が問い続けたもの【79感門】

2022/09/10(土)17:30
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48[破]突破式。

原田学匠がこの先達文庫を読み上げたとき、誰に贈られるものかすぐにわかった。

「シード群生教室」の阿部幸織師範代へ。

 

ハイデガーの弟子であり恋人でもあったラディカルな思想家ハンナ・アーレントは、古代ギリシアのポリスで交わされたQ&Aの応酬に編集を見出していた。

 

そしてQ&AはQuestion&Edit(Q&E)へ。教室内で問いを発し続け、小さなシードから群生のように編集的ふるまいを発生させていったのが阿部だった。

 

 

問いが加速するきっかけのひとつは、ロール中に急逝した師範・渡辺高志の言葉だった。

師範代がリスクをとらなくてどうする?」。

そのとき迷いがふっきれたような風を感じたと、[破]番匠の野嶋真帆は壇上から語った。

 

阿部がEを返する。

「高志師範が亡くなった5月28日、師範が座っていたはずの空席を見つめながら、私は何かを引き受けなければと思っていました。実際は福田容子番匠が師範のロールも担ってくださいましたが、私も同じつもりで走っていた。

 

その文脈で50[守]師範という新しいロールが降ってきて、これは与えられた機会でもありますが、偶然は自分でも掴み行けることを体感した。

皆さんも同じ。自ら手を伸ばしたから掴めたとしか思えない偶然が、稽古中にたくさんあったと思います。

 

いま皆さんは、新しい偶然に手を伸ばしています。

 

教室も期も講座も超えて、お伝えします。進破を迷っているなら進破を。入伝を迷っているなら入伝を。

新しい偶然を皆さんはすでに掴んでいるはずです」

 

師範・渡辺高志からの「借り」、番匠であり師範でもあった福田容子からの「借り」、そして学衆たちからの「借り」をQ&Eに代えて、澄んだ声とまなざしで阿部は継ぎつないでゆく。

 

  • 羽根田月香

    編集的先達:水村美苗。花伝所を放伝後、師範代ではなくエディストライターを目指し、企画を持ちこんだ生粋のプロライター。野宿と麻雀を愛する無頼派でもある一方、人への好奇心が止まらない根掘りストでもある。愛称は「お月さん」。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。