この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
青井隼人さんは、イシス編集学校の基本コース[守]、応用コース[破]の師範代を経て、5月12日開講の55期[守]では師範を務める。
現在、大学で教える青井さんは、イシスを経て指導の仕方が変化したという。どう変わったのか。好評の連載エッセイ「ISIS wave」、48回目の今回は、青井さんに訪れた変化をお送りします。
■■師範代を経験して
大学院生だった僕は、指導教員からのコメントを見るのが怖かった。送った論文の草稿はいつも真っ赤になって返ってきた。不足を的確に突くストレートな言葉が胸に刺さる。大学院の指導とはそういうものだと受け止めようとするが、どうしても1日置いてからでないとメールを開く気にはならなかった。
イシス編集学校に入門したのは、大学院を修了してから6年後、2022年のことだった。師範代から初めてもらった指南は、秋風のように心地が好かった。
「同じ意味なのに、アタマに浮かぶイメージって変わってきませんか? 編集学校では、このような違いを大切にしています。正解も不正解もありません。それぞれでいいんです」
正解も不正解もない? それでも指南によって回答は評価され、次に目指すべき方向性が示された。指南の言葉に励まされた僕は、すぐにお題の回答に夢中になった。[守]コースの17週間は、いつも指南が待ち遠しかった。
[守]コースを始めてひと月ほど経ったころ、大学に職を得た。博士学生の研究とキャリア開拓の支援を担当する専門教員として採用されたのだ。その頃には、すべての回答を受け止め、思考の過程を掬い取り、その先を見せてくれる指南にすっかり魅了されてしまっていた。どうしたら学生を励ます研究支援ができるだろう。自分も指南が書けるようになりたい。[守]コースで編集稽古を終わりにするわけにはいかなくなった。
2024年春、師範代養成コースである[花伝所]を修了し、斜格多義る教室の師範代として登板した。受容と評価と問いの《三間連結》を基本の型とする指南は、相手の不足を不足として単純に突くだけの方法ではなかった。不足が次の編集可能性であることを相手に気づかせるための方法が指南だったのだということを、師範代を経験して改めて理解した。
[守]の師範代を経験したことで、学生指導の言葉も変わった。これまでは提出された文書に書かれた言葉を添削するだけで、なぜ学生がそのように書いたのか、どのように考えてそう書いたのかについて、想像しようともしなかった。書かれたものが僕にわかるかどうか、そこだけが評価の対象だったからだ。しかし指南はそうではない。相手がその文章をどんな風に考えて書いたのかを想像できなければ、指南を書くことはできない。指南の型を覚えてからの僕は、学生の思考にできるだけ寄り添い、受容することを意識するようになった。
「聴いてくださって本当にありがとうございました。そして今の私に必要な言葉をかけていただいたように思います」
あるとき、博士論文の執筆相談に来た学生が、そうお礼を伝えてくれた。受容という方法を知らなければ、ここまで深く学生と関われることも、きっとなかったと確信している。
▲編集学校で学んだ読書の型のエッセンスを取り入れた、青井さんのオンライン読書会(ゼミ)の様子。
◆イシス編集学校 第55期[守]基本コース募集中!◆
稽古期間:2025年5月12日~8月24日
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-06-10
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2025-06-10
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2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。