この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
流通業界一筋の浅沼正治さんは、46歳の時にイシス編集学校で学んだことで、流通システムの見方ががらっとかわったという。
実は浅沼さんは、7月で社長を退任し、今後は流通の研究とコンサルタントをやっていく予定だ。自身と業界の未来を語る、浅沼さんのエッセイをお送りします。
■■流通のルール・ロール・ツール
企業で働いて38年になる。若い時は事務機メーカー特約店、販売店のセールスマン、文具店の店長、会社の営業統括マネージャーを勤めた。その後、メーカー系物流子会社の設立に参画し、経営者となって20年になる。振り返ると、商品が生産元から消費者に届くまでの流れのすべて――「流通」にずっと携わってきた。そしてネット通販等の勃興により、その流れが著しく多様化した今、新たなステージから「流通」を捉えていこうとしている。
流通とは、「時間」と「空間」の隙間を埋めることである。作り手である生産者が作るタイミングと、使い手である消費者が欲しいタイミングは一致するとは限らない。大雨の水を貯蔵するダムのような役割を担い、粘菌のように入口と出口までの経路を結びながら動く存在である。
2015年、46歳の時にイシスに入門して、[守]の型である〈ルル3条(ルール・ロール・ツール)〉で捉えなおすことにより、流通というシステムの解像度があがった。
この仕組みのロールは、生産者/問屋/小売/消費者。ツールは運搬するためのトラックやフォークリフトであり、保管するための倉庫だ。ルールは業界や製品によって異なる。
生産者→問屋→小売→消費者という流れでモノが動いていく過程をそれぞれのロールから見ると、生産者の理屈に加えて、問屋や小売にも言い分(それぞれのルール)があり、消費者の個別のニーズがあることがわかった。
時間と空間の隙間を埋めるために発達してきた流通のはずだが、店頭レジや相談窓口カウンター、チャットボットでのやりとりや機械化、自動化されたオペレーションは、人と人の「あいだ」を無味乾燥なもので埋めてしまった。
効率を上げるためのルールとツールの整備に注力し、ロールである人をないがしろにしてしまったのだ。実際、全国に張り巡らされた大手チェーンの流通システムの発達は地域のつながりを減少させている。
「流通」は、送り手だけでなく「受け手」もロールなのだ。本来は、送り手と受け手、つまり人と人の間をつなぐための流通だったはずなのに、いまやその流通によって人と人の関係が希薄になってしまった。人々がモノにのせた想いを届けるという大事なルールは、忘れられたままだ。
世間では、「物流2024問題」が話題だ。ドライバーの労働時間に上限が設けられることが決まっており、流通業の働き方改革は待ったなしだ。今まで〈注意のカーソル〉があたることのなかった流通とそれに関係する人たちに関心が広がるのは結構な事だと思う。人口減少、流通多様化、働き方改革……今、〈ルル三条〉を再構成する必要に迫られている。
人の温もりや関係性の充実のために流通はどうあるべきか。魅力的な個人商店街の復活をイメージしたり、一方通行のモノの流れから循環型(サーキュレーション)の社会に移行するための流通の仕組みを考えたり、これまでの社会が重視してきた即時性と効率性とは別の「流通の本来」を立ち上がらせるスコアが必要だ。流通は人と人とを繋ぐ「有機的な触媒」だったはずなのだから。
流通が失った、「人々がモノにのせた想いを届ける」という大事なルールを取り戻したい。
文・写真/浅沼正治(36[守]共術かさね教室、40[破]リテラル本舗教室)
編集協力/阿曽祐子
編集/羽根田月香、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。