新米パパのイクメン日記――坂田裕俊のISIS wave #15

2023/10/08(日)09:00
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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

坂田裕俊さんは新米パパである。現在は子育て&仕事優先で編集学校の学びは休止しているが、第一子と接して見えて来たのは「BPT」という方法だった。
ベース(B)からターゲット(T)に向かっていく途中のプロフィール(P)に着目するこの方法、坂田さんはどう育児に生かしたのか。

 

イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズ、第15回をお届けします。

 

■■BPTで感じる子供の成長

 

 イシス編集学校の基本コース[守]を終えたあと、昨年(2022年)の夏に息子が誕生し、いまは夫婦共に協力しながら育児をし、子供の成長を見守っています。


 日々の育児で感じることは、赤ちゃん(息子)は身体感覚の分節化の真っ最中であり、距離の近いBとTを分けることの「お世話」をする必要があるということです。Bとは起点(ベース)のことで、Tは向かうべきターゲットです。大人だと、出発点とゴールが離れていますが、赤ちゃんはこれがとても近いのです。身体の動きでいうと、関節の動きが少なく、パタパタと手足を動かし、動きの速度や力加減の調節もあまりできません。そこから突飛な動きをするので見守りや補助が必要です。

 

 編集学校では、BPTといって、ベースとターゲットのあいだのP(プロフィール)を豊かにすることが大切なんだと教わりました。でも赤ちゃんは、BとTが近すぎて、Pの隙間がない。だから親は、赤ちゃんの行動のBとTのあいだにPを差しこんであげます。
 衣食住に纏わることも全面的にPの差し込みが必要で、その際は「温度調整(環境)」「心地よい体勢(身体)」「声かけ、揺らし等(遊び)」「タイミング(機)」が大切と感じています。例えば「ねんね」では、室温と衣服の種類での体温調節、心地よい抱っこの体勢、子守唄と揺らし、それらを差し込むタイミングが大切になります。「食事」「お風呂」「排泄」「遊び」もそれらの方法のアレンジで対応しています。
 お世話をしていて面白いのは、必ずしもこちらの予定(見立て)通りにいかないことだと思います。決めつけや思い込みがあると、差し込むPの内容やタイミングにズレが生じてTへの道が困難になります。その都度五感で状況を感じとり、赤ちゃんを安心させ、微妙なズレに対応しつづけます。そして機を見て赤ちゃんの成長に適した生活環境へ親共々バージョンアップを試みます。

 

 子供の成長は早く、親の必要性も日々変化していきます。気付けば親離れし、自分で寄り道、回り道をしながらPを豊かにしていくのだと思います。またその様を見守れるように、BPTを紡いでいきたいと思います。

 

▲2022年夏生まれの坂田さんのご子息。彼の未来は可能性に満ちている。

 

想像してみます。自分が何者であるかもわからず、聞くもの触れるものすべてがおそろしい。眠りにつきたいのに、いろんな刺激がさわって落ち着かない。もぞもぞと身をよじり、泣くしかない。その瞬間。心地よい温かさが身を包み、優しく揺らされ、不思議なメロディが流れてきました。ああ、この不快な場所(B)から眠りにつくまでに(T)、これほど豊かな世界(P)があったとは。坂田さんの献身的な「Pを肥らせる」という編集工学的方法(BPT)を用いたお世話は、プロフィールへの肯定感として、「どこにでも可能性はあるよ」との人生のメッセージとして、確かに息子さんへ伝わっているのでしょう。


文・写真提供/坂田裕俊(46[守]位相オンライン教室)
編集協力/畑勝之
編集/吉居奈々、角山祥道、羽根田月香

 


◎エッセイ <ISIS wave その先の日常> 原稿募集中!◎

 

当コーナーのエッセイを募集しています。イシス編集学校の[守]を終えた方なら、どなたでもOK。投稿いただいた原稿は、場合によりチーム渦からディレクション(指南)が入ることがあります。どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。

 

○テーマ:日常(生活、仕事)の中の編集工学
○文字数:400~1000文字程度
○写 真:顔写真、エッセイに即した写真をご提供ください
○掲載先:遊刊エディスト
○連絡先:uzu_isis_edist★fuwamofu.com(★を@に変更してください)

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。