ライターママの三位一体――前田真織のISIS wave #09

2023/07/12(水)20:00
img CASTedit

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

小学生の二児の母であり、編集・ライターとして2社に勤務する前田真織さん。子供との日々のやり取りの中で、気づいたのはイシスで学んだ「自由」だった。

 

イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ、第9回目をお届けします。

 

■■コップの使い道は水を飲むだけじゃない

 

「学校イヤだ! 休む! ボク今日は家から出ない!」
 小3の息子がひっくり返ってわめいている。平日朝の恒例だ。
「そっかぁ。なんでイヤかなぁ~?」
「あそこは勉強するだけ! ヒマ!」
 う~ん、「勉強するだけ」かぁ。いつもは気に留めない言葉に、その日はふと引っかかる。
「勉強じゃないことも、するんじゃない?」
「…給食、食べる」
「うん。休み時間の鬼ごっことか。図書室で本も借りるでしょ」
「掃除」
「そうね。歌うとか、踊るとか、ラクガキとか?」
 学校を「勉強する」場と限定してほしくない。捉え方次第で自由な場だとわかってほしい。学校の楽しい時間を探しながら、ふと既視感。
 ――前にこんなことやったなぁ、コップの使い道は水を飲むだけじゃなかったよねぇ……。

 

 何とか子どもたちを送り出し、仕事モードに切り替える。月木は都心へ。水は郊外の別の会社へ。火金は在宅勤務。
 2社に勤めるようになって3年が経った。もともと家庭/仕事の「二点分岐」で充実していたけれど、縁あって仕事をさらに分けることに。振り返ればその時から、家庭/仕事1/仕事2のいわば「三位一体」で日常のバランスをとってきた。 
 仕事はいずれも編集・ライター業だが、関わるコンテンツはさまざまだ。ビジネスパーソン向けのウェブ記事、中高年向けの雑誌広告、ブログ記事、ビジネス書の原稿…etc.。日々「モード」を変えていく。
 小5の娘が弾くピアノソナタを聞きながら、あるいは息子の国語の教科書の音読を聞きながら「編集八段錦」が頭をよぎる。彼らの将来を思いつつ、「原郷からの旅立ち」の準備段階だとしみじみすることもある。自分の人生だって途上だけれど。

 

 慌ただしい生活のあちこちでふと、編集の要素に気づく。そんな時、一緒に学んだ仲間を思い出して励まされる。
 学ぶ前より後の方が、出会う前より後の方が、私は豊かになっている。

 

 

▲「原郷」の象徴のランドセル。前田さんの二人のお子さんは、いずれランドセルを置き、未知の世界へと旅立っていく。

 

日常に潜むさまざまな編集の型。それらはすべからく「編集八段錦」に向かいます。量子力学や生命工学等を元に松岡正剛が生み出した編集思考のマザーモデルは、世の中のあらゆる事象とも呼応して驚愕です。編集学校のある仲間は、エリクソンの心理社会的発達理論と八段錦を重ね合わせましたが、前田さんのお子さんは今まさに、八段錦の最終段階「自己編集性の発動」に向かって旅立つところ。そうそう「原郷からの旅立ち」を含む英雄物語の五段階構造も、八段錦が高次のメタモデルでありました。


文・写真提供/前田真織(45[守]アフロル・テクノ教室、46[破]多項セラフィータ教室)
編集/角山祥道、羽根田月香

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

  • 『ケアと編集』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。 さて皆 […]

  • 寝ても覚めても仮説――北岡久乃のISIS wave #53

    コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは? イシスの […]

  • 目に見えない物の向こうに――仲田恭平のISIS wave #52

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 仲田恭平さんはある日、松岡正剛のYouTube動画を目にする。その偶然からイシス編集学校に入門した仲田さんは、稽古を楽しむにつれ、や […]

  • 『知の編集工学』にいざなわれて――沖野和雄のISIS wave #51

    毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変 […]

  • 『NEXUS 情報の人類史 下』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。  歴 […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。