本を売るということ――佐藤伸起の ISIS wave #02

2023/03/28(火)19:00
img CASTedit

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

佐藤伸起さんは公共機関に本の営業をかける書店外商部の営業マンだ。二児のパパでもある(この写真も娘さんが撮影した)。『情報の歴史 増補版』が好きだったこともあり、知人の勧めでイシス編集学校を受講することになったが、正直、効果のほどは半信半疑だったという。

だが変わった。
佐藤さんは、基本コース[守]を終えたあと、1年のブランクを経て、応用コース[破]へと進む。そこで師範代の言葉に出会った。
師範代の言葉が佐藤さんを変えた。それはどんな言葉だったのか?

イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ。第2回をお届けします。

 

■■諦念の中の「問い」

 

 42歳男性で本屋の外商部の営業。図書館や教育研究機関、官公庁などに営業をかけ受注・納品するという、誰がどう売っても変わらない商品を主な販売物としています。公費購入の予算は決まっており、評価基準は値段だろうと考えていました。
 そんなタイミングでイシス編集学校を知りました。
 コミュニケーションで必要な「国語力」ってなんだろう?
 どうやったら今より楽しい会話や新たな発想につながるだろう?
 そう思って編集学校を受講しました。一方で矛盾していますが、先入観もありました。眉唾もんで、煙に巻いちゃいそうで、意識高い系。コネクリ回して、フワフワした幻想的な答えに満足する。そんな学校じゃないかと。
 淡い期待とシニカルな諦観。半々です。
 

▲受講の決め手のひとつ『情報の歴史 増補版』。現在は『情報の歴史21』電子PDF版にアップデイトされている。

 私のQ  :編集って何?
 師範代のA:編集とは、関係性の構築である。

 稽古の最中、[破]の師範代に割り切って「編集って何ですか?」と愚直に聞いてみたところ、「編集とは、関係性の構築である」という明確で腑に落ちる答えが返ってきました。諦観が納得へと変化しました。
 [守]、[破]を終えましたが、この学校は文体や現象を「関係の束」と捉え直して、それを再構築することを訓練してくれたと思います。

 そうして私は、私と商品と顧客の関係性、つまりそれぞれへの見方や捉え方をちょっと変えて、機能や要素を整理するようになりました。具体的には、本そのものの機能と要素、本を取り巻く環境の変化、また変化がもたらす影響などです。
 どんな目的で制作され、どんな形態で刊行され、どう流通させ、どう使っていくか。制作と流通と利用の間にいる立場から、主な販売物を多面的に捉えてみることは私自身に刺激を生み活力にもなりました。

 私の販売成績に効果が出たかはさておき、働く上での心理的健康さは向上していると実感しています。多分それが、「編集とは、関係性の構築である」と師範代に教わった効果なのだと思います。
 
編集とは何か」。それは大袈裟でなく「生きるとは何か」を問うのと同じです。免疫が非自己によって自己を作り出しているように、あらゆる生命は関係線を引くことで存在しています。自己と他者のあいだに。自己と「たくさんのわたし」のあいだに。他者と他者のあいだに。この無意識の行為を意識化し、学ぶほど自由にダイナミックに、いつしか思いもよらぬ動的な関係線を引けるようになっているのがイシス的編集の真骨頂です。学びが常にそうであるように、それは波のように凪いで表面は変わらないようでいて、海底ではマグマがくつくつと沸騰してさしかかりの時を窺っているのです。

文・写真提供/佐藤伸起(43[守]合成ホロドラム教室、44[破]ムライ回遊教室)
編集/角山祥道、羽根田月香
  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

  • 『ケアと編集』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。 さて皆 […]

  • 寝ても覚めても仮説――北岡久乃のISIS wave #53

    コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは? イシスの […]

  • 目に見えない物の向こうに――仲田恭平のISIS wave #52

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 仲田恭平さんはある日、松岡正剛のYouTube動画を目にする。その偶然からイシス編集学校に入門した仲田さんは、稽古を楽しむにつれ、や […]

  • 『知の編集工学』にいざなわれて――沖野和雄のISIS wave #51

    毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変 […]

  • 『NEXUS 情報の人類史 下』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。  歴 […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。