イシス人インタビュー☆イシスのイシツ【 宇宙人な桂大介】File No.1

2020/10/06(火)09:00
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ネットを根城としつつリアルがコンティンジェントに交差する、世界でも異質な方法の学校。そこには異質に惹かれる人々が集い、自身の異質性によって学校の異質性をさらに際立たせるという相互共振が起こっている。イシスのエントロピーを増大させている「イシツたち」の地顔を「◎シツでイシツ」をキーワードに紐解くインタビュー連載。

 

例えばチシツ、スイシツ、ショクシツ、カクシツ…。「◎シツ」のシツモン仕立てでイシツ人に迫った。


 

【イシツ人File No.1】桂大介

43期~45期[守]師範、14期[離]火元組 右筆。イシスでのポリロールな活躍は言わずもがな。高校・大学時代の起業、その後東証一部上場を果たしたという経歴、別様でユニセックスな装いなど衆目を集める一方で、「わたし」についてほとんど語らず、実像が謎につつまれた宇宙人のようなイシツ人。


 

◎ショクシツでイシツ!

(※ショクシツとは?:職質。狭義に過去/現代/未来の職業のこと)

 

「うーん、単純に仕事が忙しいということもあるんですけど、あんまり興味ないんですよね、自分について語るってことに。自己紹介も苦手だし。じゃあなんでノコノコインタビューに出て来たんだって話なんですけど(笑)。以前もある人と話してて、『仕事以外の中身は空っぽなんだね』って言われたことあります(笑)」。

 

実際、このイシツ人は〝仕事以外は空っぽ〟になるほど仕事をしている。現在は様々な肩書で4、5社と関わり、つねに10くらいのプロジェクトが周囲にぷかぷか浮いているんだという。自分に興味がないというより、次々とあたらしい課題の場に身を起き、自分を詮索している暇がない。

 

例えばジェンダーや差別について考える研修の監修、バズることが目的になってしまった動画配信サービスの真逆をゆく動画プラットフォームの構築、「見返り」を期待する投資ではなく「寄付」という形での社会支援…。昨夏には返礼をもとめない「贈与」について大人が真剣に議論し、集団で寄付先を決めるという新しい試みを立ち上げたばかり。

 

ここにはマルセル・モース(『贈与論』1507夜)やローレンス・レッシグ(『コモンズ』719夜)などイシスとの邂逅からシニフィアン連鎖のように湧き出す知の連想も見え隠れし、すべてのプロジェクトに不足から始まるフラジャイルな視点が貫かれる。

なぜそこまでやるかと問うても、うーんなぜなんでしょうねえと、内面フィルターの発動には消極的だが、話の「地」が社会に置かれたとたん、饒舌になる。

 

「社会をどう良くしていくか、みたいなことはずっと考えてるんですよ。僕がイシスに来たのは、会社経営をやっていながら自分にリベラルアーツの素養がすっぽり抜けていたことに気づいたから。それは僕だけの話じゃなくて、世界で人文学がどんどん軽視されている一方で、AIによる差別の再生産とか、GAFAの躍進による格差拡大とか、僕がリベラルアーツを勉強せずにビジネスをしてきたことは、結果という見返りだけをもとめて競争がシンプルに激化していく同質性の罠という意味で繋がってるんですよね」。

 

幼い頃、大の阪神ファンだった父は、阪神が出ていない試合も熱心に観戦し、「どっちを応援してるの?」と聞くと「負けてるほう」と答えた。根っから競争がキライで、サッカーの試合では草むしり、テレビゲームでは協力プレイばかりしていたという桂少年は、長じて儲けや効率で勝ち負けをスコアリングする社会に、静かに熱く一石を投じる。

 

「そうそう、石です、自分の力で社会を変えたいとか、そこで覇権を取りたいとか、まったく考えてないんですけど、投じられる石でありたいとは思ってます。100:0の世界を99:1にするような、根本的な問いを投げかけたいのかな。じつは1%ってすごく価値があって、囲碁の序盤みたいにその石の配置をいつも考えてるんですよね」。

 

◎スイシツでイシツ!

(※スイシツとは?:粋質。狭義に譲れない粋、矜持)

 

次々に出てくる、世界に一石を投じる「やりたいこと」。そのひとつが「ジェンダーレスな和服をつくる」こと。桂大介といえば感門之盟でのユニセックスな装いもお馴染みだ。

「美意識は強いかもしれませんね。カッコいいものが好きだし、洋服も好きだし。洋服好きな人って見ればわかるんですよ。人がどう見るかじゃなくて、自分の価値基準で服を選んでいる人は、僕とテイストがちがったとしてもやっぱりカッコいいと思います」。

30才を超えてからスカートを履くようになったのも、仕事と同じ、異質に飛び込み99対1の世界を見たいから。

 

「守の全38お題の中では『マンガのスコア』が好きですね。あれってまさに自分の価値基準をつくるってお題なんです。『ONE PIECE』が一番売れているかもしれないけど、自分はこの漫画がいい、なぜならこの作品のこういうスコアを評価したいからって」。

 

メインストリームはやりたくない、トレンドにものりたくない、新しくておもしろいことはいつだってサブストリームから始まるから。自分の価値基準でサブストリームを張り続けるということは、ある意味ひと時も気を弛められないということ。お酒を飲んで酩酊するとき、唯一自我がほどけてゆく。

 

◎イシツブツがイシツ!

(※イシツブツとは?:異質物。狭義にイシツ人こだわりの逸品)

 

「これ、ちょっと持ってみてもらえます?」。

終盤、イシツ人がカバンから取り出したのは手のひら大の透明なアクリル板。つるつるとした滑らかな触感と絶妙なサイズ感に、手渡されるとおもわず耳にあててしまう。あれ?この感触、知っている気がする…。

 

「そうそう。じつはこれ、iPhoneとまったく同じ形で、携帯が手元にないと不安になる“ノモフォビア”の人向けに、友人のアーティストが試作したものなんです。その名もunPhone(笑)。商品化されなかったけど、販売されたところでケータイ依存が治るわけじゃないし、たぶん何の役にも立たないですよね。そこが僕には非常にツーカイで。これだけ手に馴染んでしまう気持ち悪さとか、逆にアディクトされちゃいそうなアイロニーとか、これこそ社会に一石を投じている感じがするんですよね」。

 

何の役にも立たなそうだけれど、ツーカイに一石を投じる。社会をどう変えるかという意思より、いかにあたらしい石か、おもしろい石か。囲碁の指し手は宇宙人というより、配置やタイミングを見極めるためイシ(意思)を隠したイシツなイシ(石)だった。

 

 

【◎おまけ:イシツ人の読書法】

頭から後ろまで読まない。気になる箇所を拾い読み。分野はとにかく幅広い。経済からマルクス、ハイエク、公益性の問題へ。ジェンダーからフロイトやラカン、善の定義へ。料理から出汁、茶室、パースの描き方へ。どのルートを深めていくか、本を読むというより勉強している感覚。家で本を読んでいたらそれだけで満足。蔵書は3000冊。

  • 羽根田月香

    編集的先達:水村美苗。花伝所を放伝後、師範代ではなくエディストライターを目指し、企画を持ちこんだ生粋のプロライター。野宿と麻雀を愛する無頼派でもある一方、人への好奇心が止まらない根掘りストでもある。愛称は「お月さん」。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。