この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

春の嵐が吹き荒れた日、本楼の一角に一夜限りのバーが出現した。名前をEDITBARという。
本楼カウンターが表舞台になったのも、マダムと化した[守][破]学匠の胸にスパンコールが光るのも、学衆の隣に師範代がいないのも、初めて見る光景だった。
招かれたのは5人の学衆。教室の仲間にも師範代にも知らせぬとの約束を守り、ある者は教室ごとの卒門式を不自然に抜けて、豪徳寺にやってきた。
迎えたのは3人のマダムと客人の選んだ数寄本。ブルーライトに浮かび上がった共読模様と5人の「わたし」を紹介しよう。
マダム康代と対話する46[守]学衆(右から、今野さん、羽山さん、浦野さん)
ぎりぎりを狙う男の礼節
浦野裕さん(46[守]かりぐらジョジョ教室)
やんちゃな回答を繰り出す自称「鉄砲玉」は、師範代の度量を試しているかのようであった。一方で、かなりの時間を指南に費やす師範代をブラックな中間管理職に準えて気遣ってもいた。なのに師範代は、楽しそうである。観察の末、常に学びの最中だからモチベーションが続くのだと思い至った。守の稽古は常に予想のナナメ上だったという。[破]ではきっちりかつ縦横無尽に落とし前をつけてくれるに違いない。
◆数寄本にひとこと◆
『白川静 漢字の世界観』松岡正剛
寝る前のウイスキーのようにちびりちびりと読むのが好き。
●マダム’Sポチ袋●
{編集学校は「表したい」が叶う場所。衝動に駆られてね!}
冴える星空の野望
羽山暁子さん(46[守]弓心一射教室)
はじめて学衆が参加した46[守]第2回伝習座。羽山は史上初学衆の一人だった。ZOOM越しであったが熱量と丁々発止に触れ、編集愛とイシス愛に感動した。仕事を持ちながら細やかな指南を届け続ける師範代の振舞いを見て、弱音は吐けないと稽古に励んだ。今は見えていないが、奥にはもっと熱いものがあるのだろう、それを知りたい気持ちになっている。星と弓とをつないだ物語に、羽山は何を一種合成するのだろうか。
◆数寄本にひとこと◆
『二十世紀の忘れ物』佐治晴夫+松岡正剛
深すぎて広すぎて何もわかっていなかった。
●マダム’Sポチ袋●
{メタファーで科学を語る佐治先生に肖って♪}
ハイパーファーストペンギンの純情
今野知さん(46[守]角道ジャイアン教室)
全員でうねる稽古を続けた教室で、今野はトップ回答の常連だった。0時にお題が出たら朝には回答、早い時は40分後に返した。家族割を活用して夫婦で受講している。もともと多かった会話がさらに増し、この5カ月はイシス一色となった。[破]にも一緒行くことを決めた。つらい時には補いあった同志とともに、「考えるな!お題が来たらとにかくやる」で突き進む。
◆数寄本にひとこと◆
『ドミトリーともきんす』高野文子
高野文子は目標の一人。セリフが詩的です。
●マダム’Sポチ袋●
{編集学校の「四天王」は無数。「地」によって変わるのよ。
今野さんは何天王?}
45[破]藤島さん(左)と小椋さん
諦めない歩みで共読を召喚
藤島あつこさん(45[破]ガンダム蓮結教室)
ハイパープランINFORMで教室代表に選ばれた。教室内で意見を出し合い、イメージをふくらませた。「これでいいか」と提出しようとした時、更なる提案が出され、最後には自分の手を離れて、思いもよらぬプランに成長した。これがイシスなのかと思った瞬間だった。本選に進めなかった時、藤島が悔しさを露わにしたのは、教室みんなで練り上げたプランが最高だと確信していたからだ。
◆数寄本にひとこと◆
『弓と竪琴』オクタヴィオ・パス
「異質」は稽古のキーワード
●マダム’Sポチ袋●
{インフォームが自分のものか人のものかわからなくなる。
まぜこぜ状態が共読の醍醐味よ}
知らない私への出遊
小椋加奈子さん(45[破]播州ざこば教室)
小椋はダンドリ上手である。割り切れない状況は苦手なはずだったが、[破]の期間は常に宙ぶらりんの感覚を持ち続けていた。汁講で教室の仲間に「クロニクルで変わったね」と声をかけられた。振り返ってみると、開講当初の「場違いなところに来てしまった」という卑屈な気持ちがなくなっていたのがクロニクルの頃だった。宙ぶらりんのようでも変化していた自分を、他人に見つけてもらった気がした。自分が知らない「わたし」と出会うべく、次のステージに向かう。
◆数寄本にひとこと◆
『24人のビリー・ミリガン』ダニエル・キイス
どうにも受け止め切れないものに惹かれる。
●マダム’Sポチ袋●
{もやもやを抱え続けることが編集}
★★★
動物は食物という「異質」を摂取することで命をつないでいる。突然変異による「変化」は生き残るための道具になる。それなのに、皆が自分を限定しすぎている。「たくさんのわたし」に気づかず、自ら自由を削っているのだ。教室も感門之盟もわたしも「新奇」を組み入れて成長する。時は春分、マダムからのポチ袋を手にした5人の「わたし」は、強さを増していく陽の光とともに多方向に伸びていくだろう。
石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
イシス編集学校九州支所「九天玄氣組」は今年20周年。発足会を行った9月の彼岸をめざし、周年事業を進めている。軸となるのは「九州の千夜千冊」を冠した雑誌の発行だ。松岡正剛の千夜千冊から選んだキーブック1冊ごとに33冊のグル […]
8年近く続いた黒潮大蛇行終息の兆しが報じられる中、イシス界隈に、これまでにない潮流がおこっている。 松岡正剛の「千夜千冊」をキーブックとし、「九州の千夜千冊」を冠した雑誌づくりが動き出したのだ。 イシス編集学校の九州支所 […]
本から覗く多読ジム——『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』【ニッチも冊師も☆石井梨香】
少し前に話題になった韓国の小説、ファン・ボルム『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)を読んでみました。目標を持つこと、目指す道を踏み外さないこと、成功することや人に迷惑をかけないことに追い立てられている人々が、書店と […]
[守]講座の終わりが近づくと、決まって届く質問がある。「教室での発言はいつまで見られるのですか?」 インターネット上の教室でのやりとりがかけがえのないものだということの表れだ。見返すと、あの時のワクワクやドキドキが蘇る。 […]
「編集しようぜ SAY!GO!」師範代は叫んだ【81感門・50守】
インターネット上の稽古場に50[守]学衆の声が届かなくなって10日が過ぎた。次期に受け渡すものを交し合っていた師範のラウンジももうすぐ幕を下ろす。卒門式の師範代メッセージには、メモリアルな期を走り切った充実がみなぎって […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。