この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

■バニー・デビューは突然に
結局「バニーメン」とはなんだったのか。感門之盟Inform共読区、数日前タブロイド紙が送付された。その番組表を見て驚いたのは、参加者だけではない。「感門之盟の司会を」という学林局のオファーを承諾しただけなのに、自分たちの預かり知らぬところで「バニーメン」として売り出されていた4人の男たちがいた。
▲左から、新井陽大(44[破]師範代、多読ジム冊師)、桂大介(14[離]火元)、蒔田俊介(44[破]師範代)、中村麻人(46[守]師範、34[花]錬成師範)。
次代を担う若きイシスメンは、イギリスのパンクバンド「Echo & the Bunnymen」のオマージュとして架空のCDジャケットまで制作されていたのである。それはまるで、誘われたハワイ旅行で突然デビュー会見をさせられた16歳の相葉雅紀のようだ。仕掛け人は、悪だくみにこそ全力を注ぐ林頭吉村堅樹。
4人なかにバニーメンの謎を握る男がいる。それは、本番初日でも第一の兎男として卒門式の司会にあたった新井陽大(あらいあきひろ)だ。
「どうして俺はバニーなのか」
彼はもう3年以上、この問いに葛藤していた。
■勝手にバニー、涙の共食い
「休んでいるあいだに、なぜかバニーになっていたんです」
新井は、2016年秋、38[守]で師範代初登板。その後、高校で世界史の教鞭をとるクリアな話しぶりが買われ、エディットツアーなどリアル講座を担当する実香連(じっこうれん)に引き抜かれた。不穏な空気を感じたのはそのころだった。久しぶりに豪徳寺に顔を出すと、吉村を中心に「エディット・バニー」と呼ばれるようになっていたのだ。
新井は悩んだ。自分の語り口がウサギっぽいのか、みずからの「観学ミミクリー教室」からくりくりのお耳が生えてきたのか、はたまた豪徳寺の猫がぴょんと化けたのか、とんと見当がつかない。
傷心の新井は、ついに海外に逃亡した。行き先はウクライナ。そして、彼の地でうさぎの肉を食べた。ふと思った。
「バニーにケリをつけよう」
■いとしのバニー
帰国してすぐ、43[守]師範代に志願した。新しい教室名をもらえば、バニーは上書きされるはず。あだ名の払拭には、校長の力を借りるしかない。新井はこれまでの知力を総動員し、5つの教室名候補を練りあげた。2019年9月、五反田DNPホールで感門之盟が開催される。バニーとの決別の日がやってきた。新井は鼻をふくらます。時は来た。
「バニー蔵之助教室です!」
会場はどっと湧く。立ち尽くす新井の目の前を、ちょんまげ結った白ウサギが駆けてゆく。観客席でぷかり煙草をふかしているのは、眼鏡に口髭のチェシャ猫だった。
1年後、バニー蔵之助は「バニー注進蔵」に進化した。新井にはもう迷いはない。あだ名とは他者からの共読だ。他者編集を受け入れることで、みずからの可能性は倍増になる。「師範代のバニ井です」 そう名乗る真っ赤なおめめの新井は、一人前の兎になった。
■Inform共読区 Eiko & the Bunnymen
▲胸に兎の四文字を。蒔田の快活な司会ぶりが突破式にビートを刻む。
▲卒門式後半は、感門ではめずらしく座ったままの司会姿。桂は、ホテルのラウンジでくつろぐよう優雅に。
▲績了式を凛と務めたのは、舞台にあがるごと「めざましいね」と松岡校長から微笑まれては、はにかみ続けた中村。
写真:後藤由加里
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。