汁講ぞ、ジャイアン――46[守]新師範代登板記 ♯9

2020/12/28(月)09:21
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 ジャイアンは腕を組み、ここ数日間唸っている。どう書いたらいいかわからないのだ。
 書く題材は決まっている。46[守]の先頭を切ってクリスマスイブ前日に開催した「第1回オンライン汁講」である。学衆9名中7名が参加。鈴木康代学匠八田英子律師のゲスト、山根尚子師範ジャイアンを入れれば11人の大所帯であった。

 汁講はどうだったかって? 
 師範代として、反省材料が山と積まれている。

1.あなたはだあれ?――覆面自己紹介
2.何が出るかな?――シャッフル質問タイム
3.飛び入りゲスト――鈴木康代学匠メッセージ

 というコンテンツで、最初の目玉は、覆面自己紹介。名前を二桁の数字に変え、自己紹介を聞いたのちに名前を当てるというゲームである。ところが、誰もが「あ、この人だ!」とすぐにわかってしまう。言葉だけのやりとりにも関わらず、思った以上に、お互いのことをわかっていたのだ。クイズとしてみればグダグダであった。
 汁講後、師範の指導も入った。いわく「開始の挨拶がキリッとしていなかった」「コーナーごとの境界づくりが甘い」などなど。
 そうなのだ。ジャイアンはぬるっと始め、ぬるっと進行してしまったのである。グダグダさはすべてここに起因している。シミュレーションしていたはずなのだが、まるで縁側の茶飲み話のように時を過ごしてしまった。
 
 なぜだろう?
 ジャイアンは汁講の間中、奇妙な懐かしさに囚われていた。部活の帰り、学校の隣の駄菓子屋のテーブルを囲み、皆でチェリオを飲んでいるような感覚。「いやいや、これも編集稽古だ」と途中でネジを巻き直すのだが、すぐに隣の話に引き込まれていく。

 

 最終盤、康代学匠から「角道ジャイアン教室という場は、たとえるなら“令和版の長屋”ですね」という言葉が飛び出た。
 9人とも腕に覚えを持つ職人で、勝負する世界は違えども、何の偶然か、奇妙な名の長屋で共に顔を合わせている。交わされる会話は対角線で結ばれ、あちこちでいろいろな創発が起こっている。この9人だからこそのインタースコアだ。
 そうか、今回の汁講は、長屋の井戸端がZOOMというオンライン空間に移されただけなのだ。何を遠慮することがあろう。
 実際、参加者からは、汁講後、「実際に顔を合わせてみると、想像どおりの仲間たちだった」、「イメージ通りだった」、「会ったことがあるような感覚だった」という声で溢れた。
 ジャイアンもまた、師範代というロールを忘れ、「懐かしさ」という温かい湯――大分・明礬温泉のような心地好い湯に、首筋までどっぷりと浸かっていたのである。場を設える側の人間がこれでは、進行がぬるっとするはずである。ゆえに、その時のことを振り返ろうと思っても、「ええ、いいお湯でしたよ」という言葉しか出てこないのだ。

 

 ムムム。
 頭をかきむしっていたら、教室の最年少学衆から回答が届いた。汁講の感想も添えられている。そこには、仲間の稽古への熱量が伝わって来て自分も頑張らねばと思った、とあった。そして仲間の一人の目が輝いていることに気づき、「ワクワクしてきた」とある。
 なんだ、ジャイアンがのぼせているのを余所に、角道ーズたちは、汁講で互いに感化し合い、さらに先へ進まんとしているではないか。

 

 汁講はどうだったかって? 
 今なら胸を張って、「大成功である」と言える。
 汁講の勢いに乗って、年が明けても、角道ジャイアン教室9人の編集稽古は止まらないはずだ。彼らが46[守]で今以上に暴れ回ることを、師範代であるジャイアンが彼らにかわってお約束する。

 

▲角道ジャイアン教室の第1回オンライン汁講の様子。笑顔、笑顔、笑顔!

 

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    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。