この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

自分の一部がロボットになり、強大なものに向かっていくかのような緊張感や高揚感を覚える。ガンダムか攻殻機動隊か。金属質で無骨なものが複数の軸を起点にしながら上下左右に動く。漫画や小説、アニメで見聞きし、イメージしていた世界の一部が、あちら側からこちら側にやってきたようでもある。シルバーやブラックのシックな色合い、なめらかな動きもほれぼれする。幼な心をくすぐられ、用もないのに触ってちょっと動かしてみたくなる。モニターアームの話だ。
務めている会社では、新型コロナウイルス感染症が流行する少し前から在宅勤務制度ができ、流行と共に在宅勤務が一気に主流になった。つまり、プライベートな空間とパブリックな空間の境目が数年前から曖昧になっている状態なのだが、自宅で仕事をするにあたり、机周りの環境も変化してきた。変化の1つがモニターアームである。
普段使っているノートパソコンの画面を拡張するために外付けディスプレイを繋げているのだが、机のスペースは広くはないため、ディスプレイに元々ついていたスタンドではなく、モニターアームを購入した。
一言でモニターアームと言っても種類は多岐にわたる。スチール製のポールに固定するか、壁掛けにするか、クランプで机の天板に付けるか。アームの稼働は垂直式か水平式か、両方か。アームを動かす軸は何軸か。何台のモニターをつけるか。
それぞれの特長を見比べながら自分が使う様子をイメージしている時間がお祭りや遠足、旅行の前日のようでもあった。販売している各社のWebサイトをくまなく調べたり、家電量販店やホームセンターなどに実際のモノを見に行ったりもしたので、だいぶ長い「前日」を過ごしていた。
結局、可動域の広さと机の今の状況から、机に取り付けられ、水平垂直アームを持つタイプに落ち着いているが、「前日」が楽しければ「当日」も楽しいことにも気がつく。取り付けられた様子を見ると、異質なものが机にくっついている違和感は多少あったものの、ロボットやSFの世界が机の一角にあらわれた光景に対する好奇心の方が上回っている。
モニターアームが持つ機能は他にも変化をもたらした。ディスプレイに遊びができ、机の上に余白をつくった。スタンドだと机に半分固定された状態であったディスプレイが、一定の範囲内であるものの自由に動けるようになった。旅行用の小さなゲージに入れられた犬がリードをつけられて外に出されたような感覚にも近い。犬が動きまわれば飼い主も動く。頭をなでることもできれば、おもちゃを使ってちょっとした遊びもできる。机の上も同じで、ディスプレイが動けば机の上のモノや自分自身も動く。生まれたスペースにペン立てや本、資料、書類などがやってくるし、ノートパソコンの位置や自分の座る場所を変えたくなったり、背筋を伸ばしたり、リラックスした体勢になったりすることもできる。そうなると情報がくっついたり離れたり、重なったり、上から見えたり下から見えたりと、自分の思考や捉え方、見方も変化してくる。1つの情報の変化がその周辺にある情報にも影響を与えるのである。情報の「乗り換え/着替え/持ち変え」が起こったということだ。
モニターアームが周辺にも変化をもたらす(エレコム:DPA-SL02SV)
師範代への道を突き進んでいる39[花]入伝生にもモニターアームがあらわれ始めているようだ。師範代の型である花伝式目の演習も2週間が過ぎ、アタマもカラダも捻り、ウンウン唸りながら師範代へと向かっているが、フィードバックの表記をFBからfbと小文字にしてみたり、イワカンを大福のように頬張ったり、日常や仕事でも自身の変化に気がついたりしている。
モニターアームにせよ、ロボットにせよ、サイボーグにせよ、自分ができることを拡張した機能を担ってくれている。それを使うことで、ちょっと遠くへ行けたり、高速で移動できたり、特異な能力を持ったりするのだ。自分の代わりとなるものがあることで、自身の世界が拡がっていくのである。
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森本康裕
編集的先達:宮本武蔵。エンジンがかかっているのか、いないのかわからない?趣味は部屋の整理で、こだわりは携帯メーカーを同じにすること?いや、見た目で侮るなかれ。瀬戸を超え続け、命がけの実利主義で休みなく編集道を走る。
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。