ISIS 20周年師範代リレー [第38期 大塚宏 牛歩む野辺のひろしや後の月]

2021/10/20(水)19:30
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2000年に産声をあげたネットの学校[イシス編集学校]は、2020年6月に20周年を迎えた。第45期の師範代までを、1期ずつ数珠つなぎにしながら、20年のクロニクルを紹介する。

 

◇◇◇

イシス編集学校には、松岡正剛以外にも「校長」が何人かいる。38[守]棚から地口教室師範代の大塚宏もその一人だ。もともとまちづくりに携わる横浜市の職員だったが、庁内公募に応じて通算5年間、市立高校の校長となった。イシスの門を叩いたのはまさにこの「校長時代」のことで、今から10年以上前に遡る。実は[破]の教室では、吉村林頭と同門だ。38[守]は2016年の開講なので、入門から師範代登板までは、随分と間があいたことになる。

 

師範代になるまでに、[離]と風韻講座を了えた。6[離]観尋院では、高速・特濃の編集が行き交う中、牛の歩みで文巻と格闘し、退院にあたっては「近所を苗代に」と、今までのキャリアに編集をインストールする覚悟を表明した。イシスの温泉地こと風韻講座では、小池純代宗匠に導かれるまま五七の調べに魅了され、韻去後もSNS上で日々一句を披露し続けるという息の長い編集に取り組んだ。惰性とも一徹とも一線を画す「途切れない牛歩の誠」は、小手先の編集ではとても表れるものではない。

 

満を持しての棚から地口。守破離風韻と積もりに積もった大塚の編集力は、粋で熱い師範代像を結んだ。美辞麗句を並べるのではなく、真率なひと言を確かに届ける男ぶりこそ、大塚の真骨頂。横浜・鎌倉エディット・ツアーは4回にわたって参画し、鎌倉アカデミアの面影を背負って「栄かまくらアカデミア」を立ち上げた。これは、校長時代の関係者も、職場の仲間や地域の人々も集う場に。大塚の編集力は、確かに実人生でもたくさんの人を動かしてきたのだ。

 

46守コロナ切れ字教室を経て、46破では「王冠切れ字」教室で、破師範代デビュー。登板への道は並ではなく、準備期間には師範・福田容子の愛の鞭が降り注いだ。ここでも牛のへこたれなさと素直さでもって、師範代として変化を続ける。4ヶ月目・プランニング編集術での指南では自治体職員としての経験も活き、福田を「大化け」と唸らせた。この王冠切れ字教室では、ほぼすべての発言に一句を添え、その数、通算で約500。牛歩の大塚は、もはやイシスの井原西鶴かもしれない。

◎師範代メッセージ◎


 

>あのときメッセージ>

2016年の秋、世界に皹が入り始めた。英国はEUの離脱を決め、米国はトランプ大統領に自国を託した。ノーベル文学賞はディランを選んだ。そのさなか、今は亡き学匠が「楽しく切ない」と評した我ら38守は、ゆく年くる年をミメロギアで跨ぎ、2017年の春めがけ駆け抜けた。

 

>これからメッセージ>

方法を以って森羅万象と人生を編集し、ウィズコロナ後の新しい社会を築きましょう。

 

棚から地口教室 大塚宏

 


 

●あの日!あの時!千夜千冊!●

〇乗り換え編集のアーキタイプ
1621夜 A・G・ケアンズ=スミス『遺伝的乗っ取り』

…2016年10月14日

◎紀州に過ぎたる爆発的知

1624夜 南方熊楠『南方熊楠全集』
…2016年11月24日

⦿日本文明をこそ引き受けよう

1628夜 梅棹忠夫『行為と妄想』
…2017年01月16日

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  • 川野貴志

    編集的先達:多和田葉子。語って名人。綴って達人。場に交わって別格の職人。軽妙かつ絶妙な編集術で、全講座、プロジェクトから引っ張りだこの「イシスの至宝」。野望は「国語で編集」から「編集で国語」への大転換。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。