43[花]描かれた道場五箇条、宵越しの波紋をよぶ

2025/05/28(水)07:43
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 (やばい)と変な汗をかいたに違いない、くれない道場の発表者N.K。最前列の席から、zoomから、見守ることしかできない道場生は自分事のように緊張した。5月10日に行われた、イシス編集学校・43期花伝所の入伝式「物学条々」のひとこまだ。
 花伝所で恒例、入伝生にとって謎の道場五箇条ワーク発表の場。事前に読み込んだ千夜千冊を編集の起点とし、道場生同士でルールをつくるワークは、刻刻と過ぎ制限時間に達した。与えられた時間を、「いいですね」「お~すばらしい」と賞賛しあう様子は、一般的によくみる景色。くれない道場生は、いつもの自分で応答したのだろう。


 タイムアップ後に急いで描かれた3つのりんご。メンバーに一番選ばれた千夜千冊1561夜『棟梁』で紹介されていた参考文献『不揃いの木を組む』から連想が飛び、「ふぞろいのりんご」は互いのグッドアイディアとなった。

くれない道場の発表者N.K(左)と、感応の講評を届けた錬成師範・新坂彩子(右)

 

 他道場の発表と講評を受け、悔しさが残ったくれない道場生。休憩時間も円陣を組んで言葉をつなぎ、かさね、五箇条の言葉を練り続けた。入伝式を終えての帰り道、道場生の数人は、どうにも止まらない残念をデニーズに持ち込み会議を続けた。心残りが十分に伝わる言葉を散りばめ、動きを止めずに道場ラウンジでも五箇条の完成を目指した。

 

「わかったつもりになっている」(N.K)
「とにかく考え続けたい」(N.A)
「時間の編集が不十分」(Y.A)

 

 フラジャイルな道場生にサッとエールを贈るのは道場師範・吉井優子。「身に覚えが刺さる、というのもいい経験です。忘れないですからね」。

 その通りだ。編集学校ではこの体験が存分にできる。ここから編集が動くのだ。配慮と遠慮の狭間で揺れながら、道場に出続けた6人。「前提の話になってしまって恐縮」「本末転倒」と言葉を選び、「地」を何度も確認し合い、品行方正なふるまいで「らしさ」が立ち上がるも、その隙間からは言葉にならないヒリヒリも想像できた。


 校長・松岡正剛が遺した師範代になるための条件のひとつである「1.センサーをあける」の意味を察知し始めたのだろう。三日三晩の交わし合いを経た夜中、投票という方法でケリをつけた。満場一致ではなかった。立ち上がるモヤモヤ。それを追いやらず、見て見ぬふりもせず、軽やかに言挙げし、また別の編集起点に向かおうとする6人のふるまいはあっぱれだった。


 くれない道場同様に、再編集をかけた香り立つ道場は、それぞれの物語を綴った。勢いに乗って、自分にも更新ををかけた入伝生は、世阿弥のいう「初心」で腹を据えた。花目付・林朝恵が入伝式で放った「衣を刀(鋏)で裁つ」という話は、巷で使われる「初心」の見方を更新させた。今一度、身体に通して演習稽古に臨んでほしい。

何かを始めるときにはドキドキ楽しい気持ちとともに、「うまくいかなかったらどうしよう」、「失敗したら笑われる」、あるいは「何が起こるかわからない」という不安や恐怖心もあります。そんなとき、不安や怖さを抱えながらも、まっさらな布に鋏を入れるように、新たな世界に「えいっ」と飛び込む、そんな勇気ある気持ちが「初心」です。(『疲れない体をつくる「和」の身体作法』安田登/祥伝社)

 

 道場演習の3週目。「いいね」のその先その奥を、指南というカタチにしていく。その日々は走り終えるとあっという間だが、道中は永遠に続くのではと錯覚がおきるほど先が見えなくなることもある。そんなとき、自分たちでつくりあげた道場五箇条は、何度でも「弱さからの出発」にピストルを鳴らすだろう。


 最後に、花目付・平野しのぶが道場生たちに届けた言葉を見出しにして、完成した全道場の五箇条を紹介しよう。

 

ZESTな紅――くれない道場

 新坂師範は再編集された「くれない道場五箇条」に新たな講評を届けた。

 ZEST、芯、未知、礼、10夜を想起させるキーワードが散りばめられた五箇条となっています。くれない道場の自己紹介では、何人かの方が「不足」をあげていました。道場メンバーの“いま”を直ちに持ち込み、“創”へと言い換えた編集もお見事です。共と友、あいだと相だ、から感じる余白は、変革し続けるくれない道場メンバーの独自のZESTといえそうです。まさに、始まりの礼は、未知ある道に繋がっていますね。(43[花]錬成師範 新坂彩子)

 

弾けるようにTalkativeな紫仕様――むらさき道場

 

直球ストレートで芯を食う白銀――しろがね道場


 

和漢草ニッポンをまとう若草――わかくさ道場


 

シンプルにして緻密構造的なやまぶき――やまぶき道場

 

 師範「代」の「つもり」となって居住まいを正した43期花伝所入伝生は、日本語と格闘しながら今日も「方法の魂の実験」を繰り返している。
 

文/新垣香子(43[花]錬成師範)

 


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スコアの1989年――43[花]式目談義

  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。