この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

現代において、生成AIの進化は、私たちの記憶のあり方に大きな変化をもたらしつつある。中世以降、「記憶術」は記憶に場とイメージを刻み込み、個人の内的世界を構築するアルス(技術)であったのに対し、生成AIデバイスやアプリケーションは、あたかも個人の「記憶の宮殿」のように機能しはじめるのだろうか?
中世以来の記憶術は、決して過去の遺物ではない。特異な美術史家、アビ・ヴァールブルクは、イメージや図像を通じて文化的な記憶が継承されるダイナミズムを明らかにし、作家で記号論学者のウンベルト・エーコは書物と人間の記憶が織りなす知の迷宮を描き出した。
中世の記憶術から現代の生成AIに至るまで、記憶と場とイメージと書物の諸関係や神秘的な複雑性は、時代とともにどのように変化してきたのか。
中世では、書物と人間の関係はマン・マシン・システムとしての威力を
発揮したのだ。ジョン・ノイバウアーが『アルス・コンビナトリア』(ありな書房)で指摘したのは、その威力は近世や近代でも、たとえばノヴァーリスやマラルメには継承されていたということだった。
なぜ、そんなことが可能であったのか。
「考えようとすること」(consideratio)が「書かれようとしたこと」(literatura)と対応していたからだ。
「書くこと」と「読むこと」とが有機的に立体的に交差していたからだ。
千夜千冊1314夜『記憶術と書物』メアリー・カザラース
https://1000ya.isis.ne.jp/1314.html
人間の感性を支えるテクノロジーの急速な変化がもたらす記憶の変容と拡張の可能性を探りつつ、記憶術の知恵と技が現代においてどのように応用され、新たなアルスコンビナトリアやムネモシュネアトラスを再編集できるのか。
今回のISIS FESTAでは【多読アレゴリア】OUTLYING CLUBを率いる武邑光裕が、ヴァールブルクの生涯と彼の未完の図像プロジェクト「ムネモシュネアトラス」を交えがら、記憶をめぐる変革期にある現代、そして未来がどこへ向かうのかを語ります。
連鎖する記憶の迷宮へと彷徨い、揺蕩う一夜を過ごしましょう。
※本イベントはリアル・オンラインのハイブリッド開催です。
■ISIS FESTA SP多読アレゴリア・武邑光裕篇
「記憶の地図と書物の新世紀」~21世紀のアルスとムネモシュネアトラスへ~
■日時:2025年5月22日(木)19:30-21:30
■参加費:
【一般参加】
本楼現地参加 3,300円(税込)
オンライン参加 2,200円(税込)
【多読アレゴリア】OUTLYING CLUB&千夜千冊パラダイスメンバー
本楼現地参加 3,300円(税込)
オンライン参加 無料
*OUTLYING CLUB&千夜千冊パラダイスメンバーの方は、終了後の第二部にご参加いただけます
■会場:編集工学研究所1Fブックサロンスペース[本楼](世田谷区赤堤)&オンライン配信
■対象:どなたでも参加いただけます
■定員:30名
本楼現地参加 30名 オンライン参加 無制限
■ゲスト:武邑光裕(メディア美学者、ISISコミッションメンバー)
■内容:武邑光裕さんによる「記憶の地図と書物の新世紀」をめぐるレクチャー
■申込締切:5月22日(木)17:00
■申込カート:https://shop.eel.co.jp/products/es_tour_250522
増岡麻子
編集的先達:野沢尚。リビングデザインセンターOZONEでは展示に、情報工場では書評に編集力を活かす。趣味はぬか漬け。野望は菊地成孔を本楼DJに呼ぶ。惚れっぽく意固地なサーチスト。
SUMMARY 私たちが食べてきたものとは何か。思い返すとそこには過ごしてきた日々の記憶がつき纏う。例えばおやつには家族や友人とのエピソードが潜んでいて、おやつを前にすると誰もが子どもの表情に戻る。小川糸が紡ぐ生死が混 […]
【三冊筋プレス】ブルーとイエローのプロジェクション(増岡麻子)
それは「うつ」だろうか ロシアのウクライナ侵攻、安倍晋三元首相銃撃事件、2022年は悲惨な事件や事故、戦争の映像を多く目にした一年だった。否応なしに目に入ってくる悲惨な場面に心が疲弊した人も多く、私 […]
本から本へ、未知へ誘う「物語講座」&「多読ジム」【79感門】
感門之盟の終盤、P1グランプリの熱も冷めやらない中、木村久美子月匠が、秋に始まる【物語講座】と【多読ジム】を紹介した。 このふたつのコースは守・破の集大成ともいえる。「師範、師範代経験者にこそ受講して、共に […]
<多読ジム>Season10・春の三冊筋のテーマは「男と女の三冊」。今季のCASTは中原洋子、小路千広、松井路代、若林信克、増岡麻子、細田陽子の面々だ。男と女といえば、やはり物語。ギリシア神話、シェイクスピア、メリメ、ド […]
【三冊筋プレス】植物と人が触れ合う、現代のユートピア(増岡麻子)
白洲正子もチャペックもウィリアム・モリスもメーテルリンクもみんなボタニストの編集的先達だ。<多読ジム>Season08・秋、三冊筋エッセイのテーマは「ボタニカルな三冊」。今季のライターチームはほぼほぼオール冊師の布陣をし […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。