この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「大丈夫かな。みんなに伝わっているかな」。
輪読座「世阿弥を読む」の第一輪(第一回)を終え、輪読師・高橋秀元、通称バジラ高橋がつぶやいた。オンライン輪読座に戸惑いを隠せない。
イシス編集学校唯一のリアル講座として長年開催していた輪読座だが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、初めての完全オンライン開催となったのだ。
今まではバジラの目の前に輪読衆がいて、輪読衆の反応や質問に呼応した知を編集して手渡していた。しかし今回、バジラの目の前にあるのは、2台のカメラとオンライン参加する輪読衆が映し出された画面のみだった。雑音が入らないようにと、輪読衆はマイクをミュートにしており、相づちの言葉も聞こえない。
参加者の呼応のない静かな本楼だが、バジラの知の波は止まらない。父、観阿弥の至芸の世界観を、世阿弥が極上の編集で『風姿花伝』にどのように記していったのか。観世座を保つための猿楽能基盤「条々三位一体」と「猿楽座心得」を重ねたバジラ特製図像で『風姿花伝』にある世阿弥の編集を読み解いていく。
イシス編集学校20周年に合わせ、満を持しての世阿弥にバジラの気合はひとしおだ。
それを感じたのか、画面に並ぶ輪読衆の集中が高まる。その面々はイシス編集学校の学衆だけでなく、師範、師範代、なんと三津田知子花伝所花目付に田中晶子花伝所長とオールスター。
参加者が少なかったり、リアル開催ができない感染症の影響があったりと、輪読座に数々の開催の危機があったことを感じさせない盛況ぶり。オンラインながら参加者は30名を超え、イシス編集学校の師範代になるための花伝所を受講しつつ輪読座もあわせて参加している人も多い。これぞ「稽古条々」「稽古は強かれ、情識はなかれ」だ。『風姿花伝』こと『花伝書』に肖ったイシス編集学校の花伝所には世阿弥の精神が息づいている。
松岡正剛校長は花伝所を「既存社会の価値観が忘れられている今、世の中にない価値がある」と語る。師範代という新しい才能を発信し続ける花伝所の根底にあるのは世阿弥の心なのだ。
世阿弥の型を読みあう輪読座。第一輪は、動画と資料でキャッチアップできる。この機会を逃してなるものか。輪読座第二輪は『風姿花伝』以後、世阿弥の四十代から六十代までの熟慮の成果を集成した『花鏡』を読みあう。間もなく5月31日に開催だ。知の古を稽えたいのなら、ぜひ飛び込んでみてはいかがだろう。
詳細はこちらから。
衣笠純子
編集的先達:モーリス・ラヴェル。劇団四季元団員で何を歌ってもミュージカルになる特技の持ち主。折れない編集メンタルと無尽蔵の編集体力、編集工学への使命感の三位一体を備える。オリエンタルな魅力で、なぜかイタリア人に愛される、らしい。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。