この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

◆校長を現在化する
番選ボードレールに突入する直前に、阿久津健師範が声を挙げた。
「宇川さんの方法を使って校長を現在化したい」
1月19日に54[守]の特別講義に立つ、現代”美術家”であり、DOMMUNE主宰の宇川直宏(うかわ なおひろ)さんは、呼吸するように創作編集をおこない、過去の歴史・アート・音楽をDOMMUNEというライブストリーミングのチャンネルで現在化し続けている。
ライブストリーミングにもいくつかの方法があり、過去のライブ映像を生配信し、共有し、交わし合うことで、「現在化」する。この方法を使い、松岡校長の動画、「インターメッセージ」を同時視聴し、松岡校長を現在化する目論見だ。
◆インターメッセージ 「松岡校長のAnalogical Way」
動画、インターメッセージ「松岡校長のAnalogical Way」は松岡校長が[守]の学衆のためだけに語った動画メッセージだ。[守]の学衆だけが見ることができる。[守]のお題についてはもちろんのこと、校長自身の千夜千冊の編集方法にも触れられており、校長の声で[守]のお題から広がる編集世界を感じることができる。
◆現在化するインターメッセージ
年末の12月30日、仕事や大掃除に忙しい中、学匠、番匠、師範、師範代、学衆の40名が集まった。ほとんどの教室から出席者が集まるという、注目の高さだ。動画の開始前には、編集に魅了された学衆からは、白川字書の購入について質問が飛ぶ一幕もあった。
見立て、3M(メディア・メソッド・メッセージ)、インタースコア、「鍵と鍵穴」、 アナロジー、 アフォーダンス、アブダクション……。[守]の講座に盛り込まれた編集術が校長によって語られていく。時に子供が宝物を見せるような笑顔で、時に職人が会心の作品を披露するような佇まいで、校長の語りが続く。
番匠、師範から、注釈や、リンクが投下される中、気づきや感想が、次々とチャットを埋めていった。
「見立てを表す3Mの自在さがすさまじい・・・」
「出た『全宇宙誌』これもう本じゃなくて宇宙なんよ」
『NARASIA』(松岡正剛・編集構成/丸善)
平城遷都1300年記念事業の一環として刊行された。タイトルの『NARASIA』とは、奈良とアジアの歴史的未来的なつながりを象徴する。特に、ダブルページの一対のビジュアルが奈良とアジアをつなぐ多様性を表している。
校長が『NARASIA』を広げれば、「見開きが、ヴィジュアル・ミメロギアですよね」と阿久津師範からヒトコトが入り、校長に仕掛けに、改めて感じ入る。流れが変わったのは、本楼の「えりもの」(アイキャッチ左)と「ISISのネオンサイン」(アイキャッチ右)が画面に映った後だ。
角山師範のミメロギア「神呼ぶえりもの・酔っ払い呼ぶネオン」が投下された途端、ミメロギア大会が始まった。
「風に揺らぐえりもの・決意揺らぐネオン」
「縁を彩るえりもの・都市(まち)を彩るネオン」
「語りのえりもの・騙りのネオン」
「目覚めのえりもの・微睡みのネオン」
「チョキチョキのえりもの・むくむくのネオン」
即興で紡がれる作品の出来栄えに、うまい!の声も飛んだ。動画とチャット欄は独自の動きをしながら、ともに同じ時を刻んでいく。動いている校長を見るのは、初めてだという学衆も現れ、改めて校長の語る方法を共有することで、今、ここ、現在に校長の編集を共有することができた。
◆抱いて普遍、放して普遍
編集学校はめっぽうおもしろい。どんな学衆体験にも似ていない。(中略)このおもしろさは、そこにさしかかってもらわないかぎりは、伝わりにくい。
そこで本書(『インタースコア』)が構成編集されることになったのだが、ぼくもこの本書冒頭で何が編集学校のユニークネスなのかということを綴ることにした。学校案内は別にも用意されているから、ぼくは少しディープな視点からその心意気と風姿花伝の思想を伝えることにする。それを一言で言えば「抱いて普遍、放して普遍」ということだ。
(『インタースコア』松岡正剛&イシス編集学校/春秋社)
『インタースコア』の冒頭で校長はこう語っている。編集学校の、松岡校長の、編集の思想だ。動画を一人で見るのではなく、[守]全体で視聴したからこそ見えてくる編集の世界。そして松岡校長の語りの普遍性。そこには、「抱いて普遍、放して普遍」があった。
校長が残してくれたあまりもの大きな遺産をこうして語り継ぐ。そのための方法はすでにに、私たちの手元にある。
文/北條玲子(54守師範)
イシス編集学校 [守]チーム
編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。
乱世には理想に燃える漢が現れる。 55[守]近大番に強い味方が加わった。その名もハンシ。「伴志」と書く。江戸時代の藩を支えた武士のようであり、志高く新時代を切り開いた幕末の志士のようでもある。近大番が、 […]
週刊キンダイ vol.004 ~近大はマグロだけじゃない!~
マグロだけが、近大ではない。 「近大マグロ」といえば、全国のスーパーに並び、飲食店で看板メニューになるほどのブランド。知名度は圧倒的だ。その名を冠した近大生だけの「マグロワンダフル教室」が、のびのびと稽古に励むのもう […]
日刊ゲンダイDIGITALに「本屋はワンダーランドだ!」というコラムがある。先日、イシス編集学校師範の植田フサ子が店主をする青熊書店が紹介された。活気ある商店街の横道にあるワンダーランド・青熊書店を見つけるとはお目が高 […]
「来週の会議、リアルですか?」 そんな会話が交わされるようになったのはコロナ以降のこと。かつて会議といえば“会議室に集まる”のが当たり前で、わざわざ「リアル」などと断る必要はなかった。 だが、Zoomなど […]
週刊キンダイ vol.001 ~あの大学がついに「編集工学科」設立?~
3年前の未来予想図が現実になった?! 大学の新学科として「編集工学科」が新設。 千夜千冊は2000夜間近、千夜千冊エディションは35冊目が発売。 EdistNightなう〜3年後、イシスは何を?(2022/02/25) […]
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。