師範代たちは物語を編む・読む・進む――54[守]創守座ルポ

2024/10/24(木)20:30
img POSTedit

 遊刊エディストと社会の境界で、日々うずうずと編集を続けるチーム渦。新たに、前期53[守]空耳ラブレター教室の師範代・山口奈那をメンバーとして迎え入れた。
 その山口が、最初に手掛けるのは、54[守]創守座ルポ。創守座とは、[守]の当期師範代たちの研鑽の場だ。いったいそこでは何が起きていたのか。師範代経験者だからこそ見えてくる景色を、お届けする。

 

 物語は人と人を結ぶ。読み聞かせてもらった『オズの魔法使い』、色褪せることなく語り継がれる『源氏物語』。人から人へと語られることで物語は輝きを放つ。10月5日、本楼で行われた「創守座」にはそんな特別な物語の始まりを予感させる種がいくつも散りばめられていた。

 

 師範が語り手となる用法語りでは開講目前ということもあり、冷静な語り口調の中にも一層の熱が入っていた。パソコンの画面越しに創守座を見つめながら、ふと自分が過ごしたこの夏の15週間を振り返ってみた。もしかして、師範代マザーだったのか、と思うことがあれもこれもと溢れて飛び出してきた。

 [守]を卒門した者が進むことが出来る[破]の講座には物語を編集的フォーマットと考える。その元になる型を母型(マザー)とよぶ。マザーは一つの型から枝分かれし、たくさん葉を茂らせながら、色とりどりの花のように様々な物語が咲いていく。

 

 実は師範代になっていく道も物語であり、マザーがあるのだと「創守座」はこっそりと語りかける。この師範代マザーを師範たちは巧妙に話に織り交ぜて、これからの手すりとして師範代に託す。

 用法1を語る佐藤健太郎師範(アイキャッチ写真)は「世界と私」は明確に分かれておらず、「私の世界、世界の私」という見方を転換させていくことで学衆の回答に入り込む。そうして「私」は私ではなく、師範代という存在に「なっていった」ことに気づいた。

 阿久津健師範は用法2の語りの中で、編集思考素は「正しい」、「間違い」という自分の世界モデルを手放して回答を見ることの大切さを伝えた。そうすることによって、正誤判定ではなく、回答の面白さを見つけることができる。

▲用法2を語る阿久津健師範

 

 普段の自分では受け止めきれない言葉でも、師範代という目を通して、回答を見れば「こんな見方があるのか!」とキラキラ輝く宝石のように思えた。回答の面白さを目の前にすれば普段の意固地な自分なんてどうでもよくなり、夢中になって回答を楽しむことが出来る。師範代とは一番回答を楽しむ名人なのだ!早く指南を書きたいという、うずうずは「楽しい」という気持ちだったのだ。

 

 もうすぐ54[守]の講座が始まる。この師範代マザーが教室ごとにどのような物語に変身していくのか。師範代と学衆が無我夢中で楽しむ格別な物語の蕾が開く。

 

▲指導陣が広げた「創」のシソラースに、“託す”愛情を感じた

 

文/山口奈那(53[守]師範代、チーム渦記者)

アイキャッチ写真/阿久津健(54[守]師範)

文中写真/相部礼子(54[守]同朋衆)


◆イシス編集学校 第54期[守]基本コース 募集中!◆
稽古期間:2024年10月28日(月)~2025年2月9日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu

 

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

  • 『ケアと編集』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。 さて皆 […]

  • 寝ても覚めても仮説――北岡久乃のISIS wave #53

    コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは? イシスの […]

  • 目に見えない物の向こうに――仲田恭平のISIS wave #52

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 仲田恭平さんはある日、松岡正剛のYouTube動画を目にする。その偶然からイシス編集学校に入門した仲田さんは、稽古を楽しむにつれ、や […]

  • 『知の編集工学』にいざなわれて――沖野和雄のISIS wave #51

    毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変 […]

  • 『NEXUS 情報の人類史 下』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。  歴 […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。