この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

「“恋する”は清水師範代の方法ですね」
感門之盟の壇上で、阿久津健師範から言祝がれ、続いて挨拶すべくマイクを受け取った。向き直ったらQQRQ(救急利休教室)の学衆とそのご家族と目が合った。空いている椅子には、参加が叶わなかった学衆が座っているように見えた。そうか、私はQQRQに恋していたんだ。
「正解がないと言われて困りましたよね?」
挨拶の冒頭で呼びかけると、学衆が大きく頷いた。
第84回感門之盟、卒門式の師範代スピーチに与えられた時間は1人1分。教室模様をなんとか要約して学衆と校長にお届けすることができた。ここに至るまでの道のりを振り返ってみた。
回答を見るたびに、学衆の回答に向かう方法に惚れ惚れしてきた。部屋にあるものを擬人化してないものに変身させたり、アフリカの古着リメイク話をソクラテスやヘーゲルに重ね合わせたり。私もこんな風やってみたい。そうだ、学衆の方法を借りて、教室模様を要約してみよう。
苦しい時の型頼みは、稽古中盤頃からにはQQRQ(救急利休教室)の得意技になっていた。ミメロギアで、ネーミング編集術で、型を当てて情報を動かしながら回答を探る動きがそこかしこに見られた。
師範代も学衆さんの様子を型を通して読み返してみた。QQRQの《らしさ》はなんだろう?
問いが多くて切実なこと、モノゴトのちょっとの違いをよく観察していること、多趣味で大切にしたいものがたくさんあること、お題の言い換えが上手いことが改めて見えてきた。
中でも上手いのは置き換えだ。かぶきっぽさは半沢直樹に、カラスの鳴き声はカカア(母)に、お城見学の待ち時間はスマホスキマ回答時間に置き換えられた。難しいお題がいつのまにか面白いお題にすり替わっていたのだ。
さあ、師範代はなにをどう置き換えよう?
そういえば、教室名フライヤーで、救急利休教室の世界観を利休好みの一閑人の蓋置に託したところ、校長が「極上の見立て」とコメントしてくれた。今回も、モノに託そう。QQRQは何っぽい?
開講前に師範代が作った救急利休教室のフライヤー
松岡校長直筆の教室名。ここから教室編集が始まった。
ワンピース、筋トレ、ジャズ、漫画、SF、芝居、落語、よさこい、好な人…。QQRQ(救急利休教室)は好き≒数寄が溢れる教室だった。数寄を堂々と持ち込んだ回答が発する潔さとジューシーさに、何度圧倒されたことだろう。
師範代の場合は、そもそも教室名=数寄だった。恋して世話する(≒救急)×お茶好き(≒利休)=師範代だ。利休と縁があって、恋するようにお題に絡みつき、方法の花を咲かせるものは何? 朝顔しかないことに、ここで気づいた。
こうして、学衆の稽古模様を朝顔に託した挨拶が花開いた。
正解がないと言われて困りましたよね?
みなさんは、お題をもっともっと知りたいと思って、恋するように、問いのつるをお題に巻きつけてくれましたね。
わからないことを、わかったことにしなくていい。そう気づいたころから、回答が俄然イキイキしてきました。
自分が理解しやすい様にお題を読み替えたり、数寄なものと重ね合わせて考えたり、愚直に型を当てたり、問いのつるをきっかけに、方法の朝顔をたくさん咲かせてくれました。
利休といえば茶室の一輪の朝顔を際立たせるために、庭の朝顔を全て切り落としましたが、救急利休では教室中にお題に恋する朝顔が咲き乱れました。
これからも共に方法の朝顔を咲かせていきましょう。
ありとてもたのむべきかは世の中を知らするものは朝がほの花(和泉式部)
阿久津師範からいただいた先達文庫は『和泉式部私抄』。和泉式部は朝しか咲くことのない朝顔に、恋の儚さを見た。
先達文庫には鈴木康代学匠からのメッセージが添えられる。
一方、QQRQ(救急利休教室)は、北極星に向かって伸びていく朝顔のつるに力強さを見た。
つるがのびる朝顔・光り続ける北極星(救急利休教室・Sさん)
なんてカッコいいんだろう。QQRQは[破]でもそれぞれの世界でも、きっとどこへでも、どこまでもつるを伸ばし続ける、方法朝顔であり続けるのだろう。
松岡校長が名付け、師範代が用意した教室に、学衆の花が咲き乱れる。次は外の世界へ飛び出そう。
文/清水幸江(53[守]救急利休教室師範代)
アイキャッチ/後藤由加里
清水幸江
編集的先達:山田孝之。カラオケとおつまみと着物の三位一体はおまかせよ♪と公言。スナックのママのような得意手を誇るインテリアコーディネーターであり、仕舞い方編集者。ぽわ~っとした見た目ながら、ずばずばと切り込む鋭い物言いも魅力。
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2025-06-10
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2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。