この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

第84回感門之盟「25周年番期同門祭」で”伝説の松丸本舗”が限定復活しました。仕掛け人はブックショップエディター(BSE)の皆さんです。ブックショップエディター(BSE)とは、松丸本舗で大活躍した本のコンシェルジュ。大音美弥子、森山智子、大野哲子、川田淳子、小川玲子、5名のBSEが感門之盟での表と裏をリレー形式でお届けします。
胸いっぱいの番期同門祭(84感門)、かかわったすべての方に記憶と余韻を長く残す場になりましたね。幕引き後のBSE5人が某所に集い、交わした内緒とホンネの話を少しだけお裾分けいたしましょう。
●「ありがとう」と「ありがとう」のあいだは瀬戸際?
大きな闇を抱えてこその晴れの場を盛り上げるのに、復活松丸本舗も一役買えたようで、肩の荷が降りました。「てんまる袋」と「多読アレゴリア本」は完売、本殿モドキの棚も、最初と最後では見違えるほどスカスカにしていただいたこと、厚く御礼申し上げます。
この二日間、最もたくさん耳にし、口にしたのは「ありがとう」のことば。本を選んでくれて、ありがとう。その本を連れ帰ってくれて、ありがとう。BSEが立つのは、ふたつの「ありがとう」のアイダという瀬戸際だったよね、という楽屋話が持ち上がりました。
千夜千冊443夜「五輪書」では、瀬戸際が「縁のあたり」「場の次第」「けいきを知る」「渡をこす」の四つに分けて絵解きされています。書棚に並べる本を選ぶには「けいき」を知り、並べ方を決めるには「場」を背負い、お客さまにお勧めするときにはいつも「縁のあたり」を用い、ときに「渡をこす」瞬間を持つ。BSEの2ヶ月は、その繰り返しでした。
こちらは「本殿 第7巻 男と女の資本主義」。エロスとマネーがすれ違い様、ぶつかり様に、いろんな風姿や思想を産んでいく棚です。
内緒その1。戦う本屋であり続けた松丸本舗で鍛えられたBSEの正体は、微笑む剣士。ひたすらに本を「推し」まくる峰打ち、袈裟懸け、燕返しや三段突きを受けてくれたみなさま、本当にありがとうございました。
●棚の本読み、コンプリート? エプロンって、そんなに謎?
多くの人のご厚意とご尽力により、偶然にもよみがえった松丸本舗というトポス。二日間で一番よく聞かれたのは、「この棚の本、全部読んだんですか?」と、「エプロンは、どうやって保管していたの?」が双璧でした。
いやいや、神ならぬBSE、無限に本を読める域には達しておりません。何をしているかというと、既知と既知の間にある未知について、既知を用いて全力でアブダクションしているわけです。
内緒その2:BSEのお題は目の前の本と人と場。自分にとって未知の本や場や人こそ、編集力の発揮できるカオスです。
そして言われてみれば、2012年からもう12年。引っ越しや何かに紛れてなくなっていてもふしぎではありません。「お仕舞いなので、エプロンは持ち帰ってください」と言われたBSEが、誰ひとり処分・断捨離しようとせず、手元に置いてあったのも、とくに理由はありません。
ホンネその1。赤と茶の松丸エプロンは、BSEの戦闘服にして「ライナスの毛布」の面も。ご縁があれば、10年後、25年後にまたお目もじするかもしれません。
川田淳子BSEの赤いエプロンに誘われて、「猫と量子が見ている」の棚に見入る圓尾友理師範代。初対面の二人だが、3分話すと、もう旧友。
●「さよならゼロイチ」「ぜひ来て感想」
ありし日の松丸についての話も盛り上がりましたが、15年で最も変わったのはスマホの跳梁跋扈でしょうか。検索に慣れているお客さまは、編集術を学んではいても、ついつい「ゼロイチ≒デジタル」な行動に傾きがちです。
「オススメの本はどれですか?」って、初対面で言われても、やはり神ならぬBSE、あなたの正体を多少なりとも打ち明けていただかなくては口の出しようがありません。また、目先の悩みや用事に「1対1対応」する本は、自分で書くしかないのです。
ホンネその2。デジタルを捨て、野生の知を取り戻しましょう。ISIS co-missionたちが話されていたのも、そのことだったような。
内緒その3。「てんまる袋」のタグ裏にはQRコードが記されています。「感想をどうぞ」コーナーに飛べるので、ぜひともご感想をお寄せください。わたしたちが選び、名付けた3冊セットがお気に召したかどうか、今後の役に立てたいと思います。
ホンネその3。BSEのオススメ本やてんまる袋の中身がしっくりこなかった方は、『多読術』(ちくまプリマー新書)P62をご覧ください。読書の当たり外れは「三割五分」で上々。「空振り三振」することも、読書力をつけていくのです。
楽しかった~。でも、大変だった。だから楽しかった。これって、今回感門の主役だった[守破離花]を全うされた方たちの思いとも、きっと重なっていますよね。それでは、また会う日まで!
文:松丸本舗 ブックショップエディター 大音美弥子
アイキャッチ画像提供:松岡正剛の千夜千冊
▼第84回 感門之盟番期同門祭 BSE通信
Vol.4 内緒とホンネのBSE夜ばなし(大音美弥子)
▼第84回 感門之盟通信
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
イシス編集学校のアドバイザリー・ボード「ISIS co-mission」(イシス・コミッション)に名を連ねる9名のコミッション・メンバーたちが、いつどこで何をするのか、編集的活動、耳寄りニュースなど、予定されている動静を […]
田中優子の酒上夕書斎|第一夕『普賢』石川淳(2025年5月27日)
学長 田中優子が一冊の本をナビゲートするYouTube LIVE番組「酒上夕書斎(さけのうえのゆうしょさい」。書物に囲まれた空間で、毎月月末火曜日の夕方に、大好きなワインを片手に自身の読書遍歴を交えながら語ります。 &n […]
【多読アレゴリアTV】一倉広美の「イチクラ!」着物をアートでコーデする
芽吹きの春から滴りの夏へ。いよいよ熱を帯びてきた多読アレゴリアの旬をお届けします。松岡正剛より「支度天」の名を受けたダンドリ仕掛け人・武田英裕キャスターと共に、守師範の一倉広美がアシスタントをつとめる『多読アレゴリアTV […]
この春オープンした「多読ジムClassic(25春)」も、数日のアディショナルタイムを経て、5月28日に今シーズンを無事に終了しました。3つのトレーニングお題を一挙出題! という初の試みのなか、好きなお題から、自由に行っ […]
イシス編集学校で予定されている毎月の活動をご案内する短信「イシスDO-SAY(ドウ-セイ)」。 6月のDo-Sayをお届けします。今月はイベントを多数予定していますよ!そして、イシス編集学校初のクラブ活動 […]
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。