教室風景を重ねて贈る――53[守]先達文庫【84感門】

2024/09/14(土)18:57
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 イシス編集学校が開校した2000年から25年。第1期のころから、師範代には校長が選んだ本が「先達文庫」として贈られてきた。本を贈り合うイシスの文化は、この先達文庫から始まっている。

 

 ぼく自身はずっと以前から、親しい者に本を贈ってきた。そのたびに感じてきたことがある。それは相手にふさわしい本を選んで贈ってみると、他の何物にも代えがたい「かけがえなさ」が相手に伝わるということだ。

 

 松岡校長が選び、メッセージを寄せてきた先達文庫は、いまは、師範代の指南ぶりや教室運営の様子をもっとも間近に見てきた師範や番匠、学匠が一緒に選び、学匠がメッセージを寄せる、とっておきの一冊となっている。
 今期、18教室の師範代に贈られた先達文庫を見ていこう。

 

◆青井隼人 師範代(斜格多義る教室)
 『息吹』(テッド・チャン/ハヤカワ文庫SF)

 

◆廣田雅子 師範代(コードブレイカー教室)
 『素数たちの孤独』(パオロ・ジョルダーノ/ハヤカワepi文庫)

 

◆橘まゆみ 師範代(五感・六感・七感教室)
 『寄席切絵図』(三遊亭圓生/岩波現代文庫)

 

◆菅原誠一 師範代(なんでも軽トラ教室)
 『花と昆虫、不思議なだましあい発見記』(田中肇/ちくま文庫)

 

◆土居哲郎 師範代(ネクスト・キャンドル教室)
 『街道をゆく27 因幡・伯耆のみち、梼原街道』(司馬遼太郎/朝日文庫)

 

◆山口奈那 師範代(空耳ラブレター教室)
 『歌仙の愉しみ』(大岡信、岡野弘彦、丸谷才一/岩波新書)

 

◆本城慎之介 師範代(風土いきいき教室)
 『最澄と空海』(梅原猛/小学館文庫)

 

◆清水幸江 師範代(救急利休教室)
 『和泉式部私抄』(保田與重郎/保田與重郎文庫・新学社)

 

◆織田遼子 師範代(世界はページ教室)
 『みんなが手話で話した島』(ノーラ・エレン・グロース/ハヤカワ文庫NF)

 

◆土田実季 師範代(イメージ・ダーニング教室)
 『考現学入門』(今和次郎/ちくま文庫)

 

◆齋藤渉 師範代(お茶のこ際々教室)
 『井上ひさしの憲法指南』(井上ひさし/岩波現代文庫)

 

◆笹本直人 師範代(頭文字A教室)
 『日本探検』(梅棹忠夫/講談社学術文庫)

 

◆総山健太 師範代(進塁ピーターパン教室)
 『自転車泥棒』(呉明益/文春文庫)

 

◆上原悦子 師範代(アガサ・クリンシティ教室)
 『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』(C・A・ラーマー/創元推理文庫)

 

◆廣瀬幾世 師範代(ナイーヴ朋楽教室)
 『布のちから』(田中優子/朝日文庫)

 

◆石黒弘晃 師範代(勇阿弥あやかる教室)
 『「ものづくり」の科学史』(橋本毅彦/講談社学術文庫)

 

◆今井早智 師範代(金継ゲシュタルト教室)
 『幻覚の脳科学』(オリヴァー・サックス/ハヤカワ文庫NF)

 

◆名部惇 師範代(夜が足りない教室)
 『月世界へ行く』(ジュール・ヴェルヌ/創元SF文庫)

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

角山祥道師範から先達文庫を受け取る石黒弘晃師範代。10名中9名の卒門、発言数の最も多い教室へと導いた。全員卒門とはならなかったが、卒門を果たせなかった学衆が、教室の鍵を閉める前に全てのお題への回答を届けた。教室最終日、「全員全番回答」と書いた書を教室に持ち込んだ手づくり物づくり好きな石黒師範代に贈られたのは『「ものづくり」の科学史』。副題の「世界を変えた<標準革命>」に重ね、「世界を変えていこう!」と角山師範から熱いエールも添えられた。

ビジュアルデザイン:穂積晴明

  • 米田奈穂

    編集的先達:穂村弘。滋賀県長浜出身で、伝統芸能を愛する大学図書館司書。教室名の「あやつり近江」は文楽と郷土からとられた。ワークショップの構成力に持ち前の論理構築力を発揮する。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。