この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

少し前に話題になった韓国の小説、ファン・ボルム『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)を読んでみました。目標を持つこと、目指す道を踏み外さないこと、成功することや人に迷惑をかけないことに追い立てられている人々が、書店という場所で、自らのこれまでと今を受け入れていく物語です。
読者の感想には「こんな書店に座っていたい」「オアシス」「小さく温かな灯り」といった言葉が書かれています。ホッとする場所がヒュナム洞書店なら、多読ジムはどんな場所なんだろう。本を読みながら考えてみました。
「本当」の自己紹介から始まった読書会
ヒュナム洞書店の読書会エピソードの中心人物は、店の近くに住んでいるミンチョルオンマ(ミンチョルのママといった意味)。韓国では母親である女性に対して、子どもの名前にオンマ(母)をつけて呼ぶことが多いようです。美人で華やかで行動派のミンチョルオンマは、「金を稼ぐってそんな甘いもんじゃないわよ」と言い放ちつつも、開店当初から店主のヨンジュを気にかけている人情派でもあります。
ヨンジュのすすめで読書会のリーダーとなったとたん、5人ものメンバーを集めたやり手ですが、初めての読書会では緊張で頭が真っ白になったとヨンジュに助けを求める素直な人でもあります。水を飲んで深呼吸した後に、「誰かの母や妻ではなく、自分の本当の名前で自己紹介をしよう」と提案し、そこから二時間、「オンマたちの読書クラブ」のメンバーは、自分のことだけを話せるのが嬉しくて仕方ない様子で、競うように語り合ったのでした。
カタルシスとパッサージュ
ヒョナム洞書店の読書会が本を媒介にして自分を語り共感しあう場であるならば、多読ジムはスタジオ内のメンバーの本の読み方を交換しあう場と言えるでしょう。本の表紙や装丁や前書きから受けとったイメージを出し合い、本から抜き出した引用やマーキングを見せ合います。
本の読み方は人それぞれですし、一人の人でも時期や時間や状況によって読み方が変わります。それを交換することで、同じ本でも着眼点が全く違うことに驚いたり、見過ごしていた細部に気づいたりすることもあります。
多読ジムの参加者はこう語っています。
・他人の読書が自分のものになっていく。
・知をジャンプさせる土台をシェアしつつ、いろんな方向に飛んでいける場はここしかない
・読んで何となく感じたことが他の本やスタジオの仲間との共読、冊師のコメントと重ねてみると、全く異なる風景が見えてくる。
・読書の領域がスムーズに広がっていく。
ヒョナム洞書店の読書会がカタルシスなら、多読ジムは、それまでとは違うレイヤーへのパッサージュによる解放だなあと思います。
「オンマたちの読書クラブ」は、その後、妻や母としても生き、39歳で小説家デビューしたパク・ワンソの本を読み続けているようです。多読ジムでは、シーズンが替わる度に、初めての本、運命の本に出会い、時には初めての「わたし」にも出会うことができます。
・毎シーズン、これは運命の出会いかも、と思う本が一冊はある。
・一生読まないかもしれない本に出会えるのも多読ジムならでは。
・読んだら書くのがこのジムなので、「あれ、私ってこんなこと考えていたの」って思うような、新しい自分に出会うことがたまにある。
新たな「わたし」に出会いたいなら、多読ジム、おすすめです。
★season 18 のトレーニングは、2024年3月11日スタート!
紹介記事はこちら
■info 多読ジムseason 18 春
【定員】若干名
【お申込】https://shop.eel.co.jp/products/detail/644
【申込資格】突破者以上
【開講日】2024年3月11日(月)
【申込締切日】2024年3月4日(月)
【受講費】月額11,000円(税込)
※ クレジット払いのみ
※ 初月度分のみ購入時決済
以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
例)season 18 春スタートの場合
購入時に2024年3月分を決済
2024年3月26日に4月分、以後継続
※申込後最初のシーズンの間はイシス編集学校規約第6条に定める期間後の解約はできません。あらかじめご了承ください。
→ 解約については募集概要をご確認ください。
石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
イシス編集学校九州支所「九天玄氣組」は今年20周年。発足会を行った9月の彼岸をめざし、周年事業を進めている。軸となるのは「九州の千夜千冊」を冠した雑誌の発行だ。松岡正剛の千夜千冊から選んだキーブック1冊ごとに33冊のグル […]
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コメント
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。