ただ、ボウズでは終わらせない―52[守]近大番

2024/03/02(土)09:11
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 「坊主」とは、髪を剃った僧侶を指す。放っておいても生えてくる髪の毛は、消そうとしても消せない煩悩の象徴。剃髪することで、煩悩を打ち消す第一歩と言われる。

 

 一方で、「ボウズ」とは、釣り人のスラングであり、皮肉な言葉。

  •  

 目的の魚が1匹も釣れずに終わることを指す。由来は、髪の毛を魚に見立て、「毛がない」、つまり、1匹も「魚がいない」というわけだ。

 11月、12月に「祭りだ!番ボー秘密稽古」と銘打った近大生交流会を開催し、2月7日は、第3弾「駆け込め!卒門秘密稽古」を予定。2月11日の卒門に向けて、稽古の困りごとの相談や難しいと感じるお題に近大番と一緒に取り組むもの。稽古のフォローアップの機会だ。

 

⬛︎19:00 準備は万全
 稲森久純・阿曽祐子・景山和浩の近大番に、学林局・衣笠純子の4人は、開始時刻の30分前に集まった。本日のプログラムの流れを確認し、19:30を待ち望んだ。

 

⬛︎19:40 竿はピクリともせず
 ZOOMの画面に映るのは指導陣4人だけ。衣笠純子の柔らかく包み込むような温かい声で、大人のトークタイムだね〜のセリフが印象的。ここで編集とは何たるものか思い出してほしい。

 

 編集は遊びから生まれる。
 編集は対話から生まれる。
 編集は不足から生まれる

 

 編集学校の校訓、コンセプト。松岡正剛の『知の編集術』(講談社現代新書)の序文に記される3つのテーゼだ。
 この不足を「機」と捉え、指導陣4人は対話から、遊び倒した。

 

⬛︎19:45 風向きと潮目が変わる
 「集客の最適解とは、何なのか」から話題がスタートした。
 本の帯を見て本を買うよね。佐藤優氏の帯をよく見るよね。今の100分de名著のローティって校長の千夜千冊につながるね。魚が集まりたくさん釣れることってなんて言ったけ? 入れ食いの反対の言葉は? なぜ稲森番は釣りをするの? そもそも釣りってなんなの? 狩猟採取が目的? 娯楽が目的?

 

 [守]のお題「030番:連想シソーラス」のように集客から釣りまで連想が広がる。

 

 そう!稲森は、生粋の釣り好き。50守師範代として登板の際、教室名も「釣果そうか!教室」。自身が制作した教室名フライヤーも、魚で埋め尽くす。

 

*釣ってきた魚たちを稲森は魚拓としている

 

 釣りは、魚が釣れすぎると面白くない。釣れないから面白い。潮の流れ、気温、風向き、糸の細さなど、何が問題で釣れないのか。問いをたて、3A(アナロジー・アブダクション・アフォーダンス)を全力で働かせ、仮説と検証を繰り返す。「021番:秘密基地でBPT」の「T:ターゲット」である「釣りたい魚」も歳を重ねるごとに変化する。小さい魚なら5センチのタナゴ。大きい魚だと100センチを超えるアジを狙う。3A全開の仮説と検証のサイクル。年齢とともに変化するBPT。これらがあるからこそ、釣りはやめられない。

 

⬛︎20:15 依然、ピクリともせず
 卒論前? 時間帯? 内容? 今日のイベント知られてない? と問いを立てる。3Aを全力で働かせ、稽古する動機を追求する。
 そもそも、なぜ、編集学校で稽古をするのか。
 4人が出した結論は2つ。

 

 ・ただの社会人、ただの学生でありたくない。

 ・ただ、ただ、お稽古が楽しい。

 

 上段は、現状に満足できず、自己研鑽的な要素と知への探求と好奇心。下段は、バライティに富んだお題への回答、師範代との回答→指南のキャッチボールの楽しさ。
大切なのは、1つで成立せず、両輪があってこそ。

 一方、なぜ釣りをするのか。

 

 ・ただの魚ではなく、大きな魚や珍しい魚を釣りたい。
 ・ただ、ただ、竿を出すのが楽しい。
 

 釣り人は、自分が釣りたい魚を求めて、あくせくする。魚を釣るために無心に自然環境と対峙する。一本の釣り竿から垂らす糸で水の中と交信する。
 知への探究、その先のまだ見ぬ自分を求めて。
 まだ見ぬ夢の巨魚・珍魚を求めて。
 編集学校も釣りもロマンである。

 

⬛︎20:30 思いもよらぬ釣果
 次期の近大番の編集について、今期を振り返りながら、検討がスタート。

 

これまでの議論を踏まえて、学生にどのように伝えるか。


 ・ただの社会人、ただの学生でありたくない。
 ・ただ、ただ、お稽古が楽しい。


 この考えを軸に、学生とのコミュニケーションツールの話、キックオフ説明会の内容、期中のイベント構成と来期の内容が決まった。そして、ワクワクする新企画のアイデアも生まれた。ツルツルてんのボウズも悪くない。釣り上げたものが企画会議と思わぬ結果となり、これにて竿納め。

【記事・写真 稲森久純】

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。