地下鉄のZONE ZPD OMEZAME□52[守]合同汁講レポ

2024/02/08(木)21:08
img POSTedit

 12月30日は何の日だって? 真っ先に思い浮かぶのは「地下鉄記念日」です。昭和2年(1928年)のこの日、上野―浅草間2.2kmを黄色の車両が走ったんですから。当時のポスターには、誇らしげに「東洋唯一の地下鉄道」と文字が躍ってます。
 52[守」にとっての12月30日は? バックヤードを覗いてみれば、実は地下鉄開通並みの騒ぎでした。この日、指導陣と師範代が集うラウンジで、1月14日の「本楼合同汁講」に向けて、怒濤の交わし合いが始まったのですから。『地下鉄のザジ』だったら「けつ喰らえ」という大騒ぎです。
 大濱朋子師範代から「52守はわたしのもの」と、合同汁講を「自分ごと」として引き受ける宣言が飛び出せば、内村放師範代はすかさずオンラインミーティングを企図、周囲を巻き込んでいきました。開催までに同ラウンジで、138ものやりとりがあったことを付加しておきます。
 そうなんです。もひとつ付け加えるなら、12月30日といえば、番ボーも始まり、師範代たちは指南に大忙しだったのです。ですが師範代たちは“開通”に向けて、「汁講プランニング」を止めませんでした。

 

 リアルで集う合同汁講は、午前の部、14時の部、16時の部、と3チームによる別立ての開催になったのですが、16時の部だけは、オンラインとリアルのハイブリッド開催を敢行しました。集まったのは、高田智英子師範代の語部おめざめ教室、水野亜矢師範代の時々ゾーン教室、大濱朋子師範代の白墨ZPD教室の3つ。
 北は北海道の水野師範代、南は沖縄の大濱師範代、真ん中の滋賀からは阿曽祐子番匠、本楼には栃木から高田師範代が駆けつけました(高田師範代は、開始4時間前に駆けつけ、準備に余念がありませんでした)。学衆に目を転ずれば、本楼参加3名に加え、他の教室で学ぶ妻も誘って参加した学衆もいれば、アムステルダムや京都からZOOMにアクセスした学衆も。ゲストの平野しのぶ花伝師範、嶋本昌子花伝師範を交えた総勢20名の大所帯となったのです。

▲合同汁講のために福島から駆けつけた鈴木康代学匠(左)、汁講進行を笑顔でリードした高田師範代(中)、テクニカルを一手に引き受けた縁の下の力持ち、阿久津健師範(右)。阿久津師範の奥の画面には、ZOOMに参集した学衆の顔が見える。

 

 少女ザジのパリの2日間を描いたレイモン・クノーの『地下鉄のザジ』(生田耕作訳/中公文庫)には、女装ダンサーのガブリエルおじさんをはじめ、“多様性”という言葉では括れない人々が次々と登場します。しかし考えてみれば、この合同汁講に集った20名は、世間の属性を脇に置いたぶん(ついでに世間のルールも脇に置いたせいで)、『地下鉄のザジ』さながらのごった煮となったのでした。

 

 ごった煮で何ができたかって? 少しだけその成果をご覧に入れましょう。
 選本した1冊から教室を見立てる「本で教室見立て」をとっかかりに、本楼参加者が本楼の中から本を1冊選んで、掛け合わせる「本で教室キャッチフレーズ」というワークを行いました。ざっくりまとめれば、参加者は6万冊の本楼をめぐりつつ、本で遊び尽くしたのでした。
 これが、出来上がった「キャッチフレーズ」です。

 

●語部おめざめ教室

『語り芸パースペクティブ』(玉川奈々福編著/晶文社)×『あゝ、荒野』(寺山修司/角川文庫)×『花さき山』(斎藤隆介・作、滝平二郎・絵/岩崎書店)×本楼本『戦国のコミュニケーション』(山田邦明/吉川弘文館)

→ 擬型 千形 桜吹雪

「師範代の声が教室の隅々まで、遠くに近くに響いている」(Oさん)、「この教室は情報を先入観なくフラットに扱ってくれる」(Iさん)、「教室に色んな花が咲いている」(Yさん)という教室見立てから、連想がめざめていった。生まれ出た共通ワードは、花咲く吉野山を縦横無尽に駆け回った「義経」だ。ここから編集が入る。義経を音読みにして、ギケイ。ギケイとは、「擬き(モドキ)」の型。「擬き」の型から、千のカタチとなっていく。学衆と師範代の「語り」は、千の花片になって舞う。桜吹雪だ。「最後にみんなで花を咲かせましょう!」。教室の目指す方向が決まった。(高田智英子師範代)

 

●時々ゾーン教室

『ぶらんこ乗り』(いしいしんじ/新潮文庫)×『オーデュボンの祈り』(伊坂幸太郎/新潮文庫)×『没後400年 長谷川等伯 特別展覧会図録』(毎日新聞社)×本楼本『百人一酒』(俵万智/文春文庫)

→ 個性を収穫し、思考を醸す 時々ゾーンどぶろく

学衆に酒好きが多数いる。そんな特徴からOYさんが本楼で選んでくれたのが『百人一酒』だったが、「連想シソーラス」すると、お酒の名前、酒場、ブレンド、酒造りと、あっという間に「酒」尽くしになった。OSさんが進行ロールを担い、出てくるアイデアに合いの手を入れ、「型」を差入しつつリードした。そして生まれたのが、「個性を収穫し、思考を醸す」。ビールかウイスキーのCMキャッチコピーのようだ。ラストの詰めで、Tさんが「教室」を「どぶろく」に置き換えた。原料を濾さない「どぶろく」に教室模様を見たのだろう。一気に「日本らしさ」が起爆した。その日参加していない教室仲間の「日本好き」が「ないものフィルター」でアフォードされた。(水野亜矢師範代)

 

●白墨ZPD教室

『千夜千冊エディション 仏教の源流』(松岡正剛/角川文庫)×『深夜特急』(沢木耕太郎/新潮文庫)×『蟲師』(漆原友紀/講談社)×『フラジャイル』(松岡正剛/ちくま学芸文庫)×本楼本『工芸 日本史小百科』(遠藤元男、竹内淳子/近藤出版社)

→ トンネルの先の白

教室を引っ張ってくれている参加者のAさんから、事後、「たくさんの皆さんが集うと、いろんな感受性に触れ合うことができ、10分位で触発連鎖するんだなと実感した」との声が漏れた。そう、ここは感受性が集う場所。オランダからも千葉からも沖縄からも、誰もが何かを求めやってきた。ここ(教室)は、ワクワクもあるけれど、儚く脆く消えそうで、未完成で不安で痛くもあった。だから「その先」を求める。トンネルの中で苦悶しながら、その暗闇で皆の揺れるプロフィールを重ねながら、深夜特急が夜を駆けるように、「その先」の「白」を目指すのだ。「その先」は2月11日のその向こう。超えた時に私はみんなと一緒にいたい。(大濱朋子師範代)

 

 パリの2日間を終えたザジの元に、母親が迎えに来ます。何をしていたのかと問われたザジはこう答えるのでした。
「年を取ったわ」

 

 パリの2日間は、少女ザジにとって密々で、しかも加速度的な変化の中にありました。そりゃあ年も取ります。ですが、ザジの2日間に勝るとも劣らない濃密な時間の流れが、ここにありました。


 ハイブリッドの「本楼合同汁講」は、わずか2時間の出来事でしたが、参加者の誰もが同じ事を思ったはずです。なんて濃いんだ、と。編集によって、時間はいかようにも濃くなるのです。今まで閉じていた連想の扉が開き、お互いの思考が開通し合った時間でした。
 そして時々ゾーン教室は思考の発酵へと向かい、語部おめざめ教室は「サクラサク」を目指し、白墨ZPD教室はトンネルの先へと歩き出したのでした。

 

取材・文/大濱朋子、高田智英子、水野亜矢
構成・文/角山祥道


その先→ ◎第52期[破]応用コース◎

●期間   :2024年4月22日(月)~2024年8月11日(日)
●申込締切 :4月7日(日)
●申込先  :https://es.isis.ne.jp/course/ha
●問い合わせ:isis_editschool@eel.co.jp

  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

  • 週刊キンダイ vol.005 ~ ハンシがゆく ~

    乱世には理想に燃える漢が現れる。    55[守]近大番に強い味方が加わった。その名もハンシ。「伴志」と書く。江戸時代の藩を支えた武士のようであり、志高く新時代を切り開いた幕末の志士のようでもある。近大番が、 […]

  • 週刊キンダイ vol.004 ~近大はマグロだけじゃない!~

    マグロだけが、近大ではない。  「近大マグロ」といえば、全国のスーパーに並び、飲食店で看板メニューになるほどのブランド。知名度は圧倒的だ。その名を冠した近大生だけの「マグロワンダフル教室」が、のびのびと稽古に励むのもう […]

  • 週刊キンダイ vol.003 ~マグロワンダフルって何?~

    日刊ゲンダイDIGITALに「本屋はワンダーランドだ!」というコラムがある。先日、イシス編集学校師範の植田フサ子が店主をする青熊書店が紹介された。活気ある商店街の横道にあるワンダーランド・青熊書店を見つけるとはお目が高 […]

  • 週刊キンダイvol.002 ~4日間のリアル~

      「来週の会議、リアルですか?」  そんな会話が交わされるようになったのはコロナ以降のこと。かつて会議といえば“会議室に集まる”のが当たり前で、わざわざ「リアル」などと断る必要はなかった。 だが、Zoomなど […]

  • 週刊キンダイ vol.001 ~あの大学がついに「編集工学科」設立?~

    3年前の未来予想図が現実になった?! 大学の新学科として「編集工学科」が新設。 千夜千冊は2000夜間近、千夜千冊エディションは35冊目が発売。 EdistNightなう〜3年後、イシスは何を?(2022/02/25) […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。