月に見守られ18教室が躍り出す―52[守]開講

2023/11/02(木)09:22
img POSTedit

 満月が欠けていき、連続して三晩の闇がくる、そこで月は「死」を迎えたかに見えるのだが、それから細い新月が「再生」し、また偉大な活力を発揮しはじめる。古代人はそこに月が生きているという実相を見たのだった。―――『ルナティックス 月を遊学する』(松岡正剛著)

 

 満月に見守られて眠りについた18名の師範代たちが、52[守]への出遊を果たしたのは、2023年10月30日の正午のことである。「世界も日本も大きな曲がり角にあるこんな時だからこそ、ようこそイシス編集学校へ」と校長の松岡正剛が学衆たちの入門を寿いだ。さらに、「ユニークな「お題」で発想力と表現力を磨き、情報の見方と読み方に通じてほしい」と鼓舞する。すかさず、師範代たちが最初のお題001番【コップは何に使える?】を教室に出題した。

 

 カミ・カゲ・イノリ教室では、20代の学衆が「拙い回答でお目汚してしまうかもしれませんが、若輩者故ご理解いただけると幸いです」と控え目に点呼に応じた。直後に「お母さんに入力を手伝ってもらっています」と小学2年生の学衆が発言する。変速シフト教室にも、「今、74歳です。愛犬のトイプードルと毎日、散歩しながらこれからの講座に、不安ながらも、皆さんについていけるよう頑張りたいと思います」との声が届く。思考力、発想力を磨くのに、年齢も属性も関係ない。学衆の多色なバックグラウンドは、イシスならではの光景だ。

 

 点呼への応答と並行して、001番への回答も続々と届く。風月盆をどり教室師範代の飯田泰興は、「盆踊りのように、まねて、踊っていこう」と教室全体に声をかけ、回答を受け取ってちょうど1時間後から高速指南をはじめた。数時間後、「心に溜めておくのももやもやするので送ってみます」と学衆の一人から声があがった。「編集にとって、オリジナリティと汎用性のどちらが大切なのだろうか」。指南と他の学衆の回答を見て、ふと問いがよぎったという。

 

 松岡は、編集稽古とは「積極的に」お題に対応することという。「積極的に」とは、与えられた問題(give)に対して、そこに問題があると見て(find)、それに対する視点や立場を新たにもつ(make)こと。すなわち「“give”と“find”と“make”を一連させよう」という構えで臨み続けることである。風月盆をどり教室に放たれた問いに、師範代はもちろん「編集や発想について考える良い機会」と出会ったばかりの教室仲間もコメントを寄せた。開講2日目にして、“give”から“find”“make”へのジャンプを果たそうとする学衆たちは、既にお題002番【アタマの中の探検】に取り組み始めている。一か月後の満月の夜、彼らはどのような「再生」を果たしているのか。

 

(文/52守番匠 阿曽祐子)

  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

  • 週刊キンダイ vol.005 ~ ハンシがゆく ~

    乱世には理想に燃える漢が現れる。    55[守]近大番に強い味方が加わった。その名もハンシ。「伴志」と書く。江戸時代の藩を支えた武士のようであり、志高く新時代を切り開いた幕末の志士のようでもある。近大番が、 […]

  • 週刊キンダイ vol.004 ~近大はマグロだけじゃない!~

    マグロだけが、近大ではない。  「近大マグロ」といえば、全国のスーパーに並び、飲食店で看板メニューになるほどのブランド。知名度は圧倒的だ。その名を冠した近大生だけの「マグロワンダフル教室」が、のびのびと稽古に励むのもう […]

  • 週刊キンダイ vol.003 ~マグロワンダフルって何?~

    日刊ゲンダイDIGITALに「本屋はワンダーランドだ!」というコラムがある。先日、イシス編集学校師範の植田フサ子が店主をする青熊書店が紹介された。活気ある商店街の横道にあるワンダーランド・青熊書店を見つけるとはお目が高 […]

  • 週刊キンダイvol.002 ~4日間のリアル~

      「来週の会議、リアルですか?」  そんな会話が交わされるようになったのはコロナ以降のこと。かつて会議といえば“会議室に集まる”のが当たり前で、わざわざ「リアル」などと断る必要はなかった。 だが、Zoomなど […]

  • 週刊キンダイ vol.001 ~あの大学がついに「編集工学科」設立?~

    3年前の未来予想図が現実になった?! 大学の新学科として「編集工学科」が新設。 千夜千冊は2000夜間近、千夜千冊エディションは35冊目が発売。 EdistNightなう〜3年後、イシスは何を?(2022/02/25) […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。