<特報>モノに宿るタイムマシン機能に気づこう!(国際シンポジウムの記念講演)

2023/10/12(木)18:00
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 10月8日のラグビーワールドカップにおける日本代表の悔し涙が天に届き、秋雨前線が活発化したスポーツの日。より長い時間軸や大きな文脈から現在の敗北を見つめなおし、将来の試合に向けての編集をリスタートしなければならない。鳥の目を用い、俯瞰的に私たちの来し方行く末を考える国際シンポジウムが上野公園近くにある国立科学博物館で行われた。イベントの中で、イシス編集学校の校長・松岡正剛が記念講演を行った。「科学をまたぐタイムマシン群」というタイトルでのメッセージをレポートする。

 

 編集の始まりは幼いころの驚きにある。校長は少年時代の蝉の観察エピソードを語る。どのような天使が、あるいは悪魔が殻から登場するのか、一晩中見ていた。幼虫から成虫までどのように変態してゆくのか。「生命に学ぶ」「歴史を展く」「文化と遊ぶ」をモットーとしてきた校長の中で、一番目に挙げた生命の不思議への探求の道を蝉が拓いたに違いない。

 

 ミュージアムに行くと、鉱物や化石など「モノ」が並べられている。実はそれらが全てタイムマシンなのだ。タイムマシンの機能は必ずしも未来に行くとは限らない。私たち人類のルーツに関わる地球生命のドラマティックなシナリオが潜んでいるかもしれない。モノたちを解析し、時には配列を変え、遠近の距離を変えることで、起承転結の文脈が立ち上がってくる。ミュージアム見学では小さな変化を見逃さず、連結されているモノの「あいだ」にも注意を向けることが必要だ。

 

 

 

 講演の最後に校長が紹介したのは19世紀のイギリスで活躍した科学者ファラデーだった。クリスマス講演を集めた『ロウソクの科学』では、鯨油からとったろうそく、ミツバチのろうそく、植物性油脂を使った和ろうそく、と世界中の多様なろうそくが挙げられる。燃焼のメカニズムは生命維持に必須となる「呼吸」と同じなのだ。物理と生物のあいだをファラデーはつないでいた。

 ファラデーには現代の電気磁気学のテキストに登場する「電磁誘導の法則」を発見したクロニクルがある。電気電子工学を学ぶ者にとっては必須となる物理概念。19世紀において、磁場が電流をつくると考えた電気回路のデモンストレーションには、まさしくデーモンが宿っている、と観客にみなされていたであろう。実験装置そのものが珍品を並べたヴンダーカンマー(驚異の部屋)のようなミュージアムだったのだ。ファラデーに肖れば、タイムマシンに乗っているように「Thing Knowledge」について考えを深めることができる。

 

 「ものすごい、ものめずらしい、ものさびしい」。モノに含まれるデーモンたちの出入りを見通す校長の世界観を学びたい場合、イシス編集学校を覗くことをおススメする。52[守]基本コースは10月30日スタート。応募締切は10月15日。定員は200名までとなっている。申し込みはコチラ

 

写真提供:松岡正剛事務所

  • 畑本ヒロノブ

    編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。

コメント

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山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。