この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

イシス編集学校[守]講座には「番選ボードレール(番ボー)」という全校アワードがある。
番ボーの定番「即答・ミメロギア」は、2つの事物の「らしさ」を際立てることにより、新たな関係を見いだしていく編集稽古だ。
44[守]のミメロギアお題、「オムレツ・チャーハン」で金賞に選ばれたのは、ドラミ助太刀教室・稲垣景子さんの作品、「絹なオムレツ・綿なチャーハン」だった。
絹と綿は、オムレツとチャーハンの来歴や食感、食べる場面を形容しているだけでなく、正装と仕事着、西回りと東進、生物と植物、思惑と心意気など、オムレツとチャーハンに潜む対比関係も引き出す。
想像力が焚き付けられ、情景や物語が立ち上がり、見方次第で何通りにも味わえるのがミメロギアの醍醐味だ。
じゃあ、「絹なオムレツ・綿なチャーハンってどんな味?」ということで、実際につくってみた。
レシピのルールは「家庭にある材料、道具で、目分量でもできること」の三位一体に「松岡校長が嫌いではなさそうなこと」をプラス。
「絹なオムレツ」は、コシのあるなめらかさや衣擦れの音から「艶めく」質感を、「綿なチャーハン」は、洗い晒しのジーンズや絣から「さっくりしゃきり清々しい」味を目指した。
オムレツには、なめらかさと艶を持たせるために生クリームを加えてみた。絹らしい質感は向上したが、味がぼんやりしたので却下。卵だけで勝負することにした。そのため、白身と黄身のムラが出ぬよう溶きと濾しに注力した。チャーハンの具には、小気味よい歯ごたえとシャキッとした香りを持った食材を選んだ。お互いの特徴を打ち消さないかを確かめながら決めていった。見た目は久留米絣のもんぺのイメージに定めた。
二十歳を過ぎ社会人となって忖度ができるようになった娘の評価は、「オムレツはう~ん、フツー? でも薄味で好みだしお母さんにしては焦げてない。チャーハンはおいしい!綿の感じ出てるよ」だった。
●レシピ
《絹なオムレツ》
[材料]
・卵 2個
・バター 5g
・塩 少々
・胡椒 少々
[ダンドリ]
1.卵をボウルに割ってカラザを取り除く。
2.箸で白身を切るように混ぜる。その際泡立てないよう箸を上下ではなく前後に動かす。
3.白身と黄身がムラなく混じったらザルで濾す。
4.塩と胡椒を少々加える。
5.フライパンを熱し、バターを入れる。バターが焦げないよう火を調節する。熱くなりすぎていたら一度止める。
6.フライパンに卵液をザッと入れる、周辺部が固まり始めたら、箸で大きく切るように混ぜる。
7.半熟時点で火を止め、ゴムベラなどを使って二つ折にし帯型にまとめ、皿に移す。
《綿なチャーハン》
[材料]
・冷ご飯 茶碗1.5杯分
・新たまねぎ 1/2個
・セロリ 10センチ弱
・ちりめん 大さじ 3
・いりごま(白) 大さじ 2
・ごま油 小さじ 2
・塩 少々
・胡椒 少々
・しょうゆ 少々
・小ねぎ 2本
・味付け海苔 1枚
[ダンドリ]
1.新玉ねぎとセロリは同じぐらいの大きさにみじん切りにしておく。小ねぎは小口切りに、味付け海苔はキッチンバサミで細く切っておく。
2.フライパンを熱し、ごま油を入れる。
3.ごま油が温まり香りが出てきたら、新玉ねぎとセロリを入れて炒める。
4.新玉ねぎとセロリがしんなりしたら塩と胡椒をふる。しょうゆ少々(しょうゆ差しなら3~4滴程度)をフライパンの肌に落とす。
5.ちりめんといりごまを加え、全体をさっと混ぜる。
6.冷ご飯を加え、しゃもじなどで切るようにしながら炒める。
7.ごはんがほぐれ炒まったら小ねぎの小口切りを加え、軽く混ぜてサッと火を通す。
8.チャーハンをお椀に入れ、軽く押さえる。お皿の上に伏せてお椀をはずし、海苔を振りかける。
ーーー
絹の「らしさ」に迫るには腕前が決定的に足りないが、味はそこそこ好評を得た。
おすすめは、クロワッサンと絹なオムレツ・大根の味噌汁と綿なチャーハンである。
石井梨香
編集的先達:須賀敦子。懐の深い包容力で、師範としては学匠を、九天玄氣組舵星連としては組長をサポートし続ける。子ども編集学校の師範代もつとめる律義なファンタジスト。趣味は三味線と街の探索。
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2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。