デーモンは巣ごもりしない 【52守伝習座 学匠メッセージ】

2023/10/01(日)22:22
img JUSTedit

今年の中秋の名月は幻想的で、アナザーワールドに誘われるようだった。

 

51守のラウンジをクローズする際、鈴木康代学匠はそうつぶやいた。暦のうえでは七十二候における「次候」。虫たちが土のなかでの巣ごもりの準備を始める時期だ。仕舞いと始まりが交差する今日10月1日、イシス編集学校では52[守]伝習座が開催された。

 

康代学匠はメッセージの冒頭で、松岡校長とラグビーの監督である平尾誠二の対談本『イメージとマネージ』を引用した。

 

ラグビーはノンリニアである。ボールがどこに飛んでいくかわからない。非線形な出来事にどう関わるか。多様な読みが必要だ。

 

ノンリニアをきっかけに最新の千夜千冊1830夜『セクシーな数学』に触れた康代学匠は、ラグビーのアンストラクチュラルなプレーに重なるエピソードを披露した。

 

それは、伝習座に向かうためにタクシーに乗り込んだ今朝の出来事だった。タクシーを予約して確保した駅までのわずか5分間。これを伝習座のための準備にあてるはずだったが、運転手がやたらと話しかけ休みなく車外に注意を向けさせる。

 

「あそこに行列がありますねぇ。なんだろう」

「あの車、一時停止の表示が見えないのかね」

 

支払いを済ませると、運転手は「今日は東京ですか。お忙しいですね」と清々しい笑顔で応じた。こちらはまったく準備に手が付けられていないのだが。

 

康代学匠は新幹線のなかで考えた。

注意のカーソルを多方向にむける。ラグビーのようにイキイキと動き続けるアテンション。これはとても編集的ではないか。

 

目の前の出来事を編集的にみて、それをどう言い表すか。言葉にできないこと。ギョッとすること。校長は「多様な言葉の組み合わせでデーモンをあらわすことができる」という。多様な読みによって殻を脱するのだ。

 

師範代は学衆の回答を多様に読みとり、ノンリニアな注意のカーソルの動きを指南によって語りなおしてほしい。その「見方」にこそ、師範代のデーモンがあらわれるはずだ。

 

  • 阿部幸織

    編集的先達:細馬宏通。会社ではちゃんとしすぎと評される労働組合のリーダー。ネットワークを活かし組織のためのエディットツアー も師範として初開催。一方、小学校のころから漫画執筆に没頭し、今でもコマのカケアミを眺めたり、感門のメッセージでは鈴を鳴らしてみたり、不思議な一面もある。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。