この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

秋葉原にトラックが突っ込んだのは、15年まえのちょうど今日だった。2021年にも、ジョーカーに扮した男が京王線内で乗客を切りつけた。目立つようになった無差別襲撃事件。一部の狂ったサイコパスがこのような凶行に及んでいるのだろうか。犯罪心理学者の見解は違う。背景には、人々の抱える「社会からの疎外感」があると分析している。
社会学者・大澤真幸氏は「『自分がこの世界にコミットしている』という感覚を得られていない人が多いのでは」と語る。どうにも自分は世界から疎外されている気がする。でも、世界に関わりたい。方法がわからない。大量殺戮は、世界にコミットするための切なる足掻きだったのかもしれないのだ。
キミとボクの関係が、すなわちセカイの命運となってしまう「セカイ系」作品。これらが流行るのも、世界に対するデタッチメント感を多くの人がもっているからではないか、と大澤氏は分析する。コミットメントしたいのにできないか。その代償行為としてファンタジーの世界に入り込むのである。
大澤氏はだからこそ、編集工学が必要だと熱を入れる。「世界をどうつかむかということを教えてくれるのが編集工学」。「松岡正剛には『世界』が見えている」。
イシス編集学校では、2022年下半期から各界の著名人による公開講義を開催している。第1回のゲストは法政大学元総長の田中優子氏。つづく第2回となるのが、社会学者・大澤真幸氏をゲストに迎えた「大澤真幸の編集宣言」である。7月2日(日)14時〜17時、東京・豪徳寺の「本楼」で開催され、オンライン配信される。
この特別講義では、イシス編集学校校長・松岡正剛と30年以上の親交のある大澤氏から見た編集工学の意義についてレクチャーされる。デタッチメントからコミットメントへむかう、その方法のひとつとして「編集」をどう活かすのか。編集工学の可能性とはどこにあるのか。さらに、千夜千冊エディション『編集力』に収録されたバルトやフーコー、ヴィトゲンシュタイン、ポランニーなどの西洋知へあらたな見方も紹介されるかもしれない。
先日、豪徳寺にて行われた打ち合わせのさい、大澤氏は、世界にコミットメントする方法のひとつを提示した。それが「死者の声に耳を傾ける」というものである。「歴史上の人物のなかで、その思いを自分が引き受けられる人はいますか。いるならば、それはなぜですか」。どうして死者の声が、私を世界につなぎとめるのか。時空を超えた世界との関わり方が、特別講義にて明かされる。
■イシス編集学校第51期[守]特別講義「大澤真幸の編集宣言」
●日時:2023年7月2日(日)14:00~17:00
●ご参加方法:zoom開催。お申し込みの方にzoom URLをご案内します。
●ご参加費:3,500円(税別)
●対象者:未入門の方もご参加いただけます。51[守]受講中の方は教室にてお申し込みください。記録動画は1週間限定で共有されますので、当日ご都合がつかなくてもご参加いただけます。
●お申し込み:https://shop.eel.co.jp/products/detail/566
■大澤真幸×編集工学 をもっと知るなら
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。